川端と安彦は「大翔」を名乗るべきなのか。遠藤の時に棚上げになった四股名議論を、どう考えるか。

今場所の幕下での注目は、川端と安彦である。
川端はアマチュア時代の実績からすると物足りない部分が有った。2場所連続での負け越しも経験した。当たり負けることも有るし、上手さで圧倒することも無い。突出した武器が無い代わりに安定している。それ故に「もしかするとこのままなのではないか」という悲観的な想像も出来る状況だったことは否めない。
対する安彦は前相撲から連勝を重ね、順調に駆け上がった。序ノ口、序二段、幕下と優勝を重ね、九州場所では川端を抜き、関取に王手を掛けた。が、ここで初めての負け越しを経験し、再度大勝ちして迎えた大阪場所。
学生時代の実績で勝る川端は、心中穏やかではないだろう。あれほど大差が開いていた両者の立場は、もうほぼ変わらない。安彦に先を越されたくはないことは、想像に難くない。そして互いに関取に王手を掛けたところで、ここまで互いに3連勝。こうしたライバル関係が今の充実を産み出しているのだとすれば、川端の最初の躓きも無駄ではなかったと思う。
今場所は本当に幕下上位が厳しい。徳真鵬や東龍のような十両の常連に加えて、再起を目指す若乃島や旭大星、これに幕下10枚目格付け出しデビューの御嶽海が殴り込みを掛ける。
ここ数年の中で恐らく一番厳しいであろう、幕下上位。この中で川端と安彦は着実に成績を残している。素晴らしいことだと思う。更に星を伸ばし、一つ殻を破って大きな力士に成って欲しいと願っている。
だが、ここで一つ気になることが有る。
そう。
彼らは追手風部屋だということである。
つまり「大翔」を名乗るのか、なのだ。
追手風部屋の先輩力士として記憶に新しいのが遠藤だ。遠藤がスター街道を邁進し始めた頃、一つの議論が巻き起こった。それが四股名問題だったのである。遠藤はこれからの相撲界を背負うだけの、素晴らしい可能性を見せていた。そんな遠藤に如何なる四股名を付けてもらうか。遠藤のままで行くのか、それとも別の名前を付けるのか。
多くの方の想いを背負うからこそ、この大器に見合った素晴らしい名前を付けてほしい。その願いは誰もが同じだった。そしてここで一つのタブーが破られた。つまり、「大翔」への拒絶反応だったのである。
この大器に対して三役が最高位だった大翔山の「大翔」は見合わないのではないか。そもそも「大翔」はその後にマッチする言葉が見つけづらい四股名なのではないか。
遠藤が大器だったからこそこの議論は為され、当初は一度追手風部屋の創始者たる「清水川」を襲名することが発表された。この決定は遠藤も、親方も、ファンも誰も傷つかずに済む着地点だった。結局遠藤は遠藤のまま行くことになった訳だが、これもこれで誰もが納得感の有る結論だったと思う。
つまり、追手風部屋にとっての「大翔」をどうするんだ問題は、遠藤の大きさ故に巻き起こり、遠藤の大きさ故に一時棚上げとなった訳である。
ここでこの「大翔」にどう向き合うかという問題が再浮上することになったのは、この川端と安彦が今場所での星次第で関取に成ることが有力であり、そうすると改名することが自然だからだ。追手風部屋のこれまでの傾向だと「大翔」を名乗ることになるのだが、遠藤の事例も有りここは不透明なのである。
何よりも私は川端と安彦に関しては、四股名に迷いが生じているのではないかと推測している。あまりにも最近、この「大翔」に対してネガティブな印象がカジュアルに話されているように思う。その最たる事例が最近発刊されたばかりの「勝手に大相撲審議会」なのだが、やくみつる氏が「追手風部屋の四股名は妙なのばかり」と話されていることだ。
そうした声に配慮してか、そもそも川端も安彦も入門時の四股名に「大翔」は付けられていない。ここなのである。
四股名は力士を表す記号ではない。四股名は部屋のものであり、力士のものであり、そしてファンのものでもある。力士のバックボーンとなる地域を、人柄を、生き方を四股名に託すのだ。
四股名については力士のものだから、周りがどうこう言う問題ではないと主張される方も居る。だが、共感できないような四股名だったとしたら、どうだろうか。そして、今ならまだ一考の余地が有るのだとしたら、どうだろうか。決断をするのは当人同士になるが、考えを述べるくらいは許してもらえないだろうか。何故なら、それほど四股名というのは重要だからだ。
川端と安彦の活躍は「大翔」の今後を左右する。
如何なる決断をするのか、土俵外からも目が離せない。
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