強い白鵬を倒すからこそ、物語は生まれる。思わぬ九州場所の結末に今一つ乗り切れなかった理由を考える。

日馬富士が九州場所で優勝した。
「15勝か、9勝か」という「ツボに入れば強い力士」という特徴が最近では消え、11勝前後で安定する代わりに15勝の爆発力を失っていた。強さを見せることも有るが、15日の中でどこか崩れる日が出てきていたのである。
ここ2年間そうした傾向が続いたのだが、これは加齢と共に爆発力タイプの力士が安定してくるという、大変よく見られる現象だったことからこのまま推移するかと思っていた矢先にこの活躍。肘の怪我を気にする仕草が目立っていたことなどを考えても、素晴らしい優勝だったのではないかと思う。
九州場所は、日馬富士による復活劇というストーリーで幕を閉じた。だが12日目までの主役は日馬富士ではなく、白鵬であることは誰の目にも明らかだった。
休場明けでありながら、ところどころに休場明けを関連付けたくなるような部分も有ったものの、長期戦に持ち込んで手詰まりにすることで勝ちを手繰り寄せたり、相手のフィールドではなく自身の得意分野で勝負する形がいつの間にか作れていたのはさすがだった。
スピードについていけてないのでは?
攻められると堪えられないのでは?
初日からの疑問は、時が解決した。
そして極め付けが、白鵬スタイルだ。
隠岐の海戦での櫓投げ。
嘉風戦での立合い一発。
そして、栃煌山戦での猫だまし。
形が無いのが形であり、予想だにしない手が出てくる。時にそれは、横綱が取るそれではない。だから誰もが意表を突かれるし、戦略として成功する。何よりも勝利を優先した、形振り構わぬ取口を最強横綱が取るのだから、当たり前のことである。
以前記事にしたが、猫だましは賞賛とか批判という次元を超えていた。驚き、それが白鵬スタイルなのだと認識するしか無かった。しかし同時に、誰かがこの力士を上回るところを観てみたいと感じた。
どうやったら何でもアリの最強横綱を倒せるのか。全く思いつかないからこそ、どのように現実のものにするのか。そこに興味を抱いた。だが、白鵬はなんと3連敗を喫してしまう。
日馬富士のスピードで出し抜かれた取組はともかく、長期戦で屈した照ノ富士戦は粘りが利かず、鶴竜戦に至っては白鵬スタイルで圧倒した時の取組とは別人と言っても良い内容だった。もはや体調不良を疑わざるを得ない、そういう惨状であった。
何が有ったかは分からない。明日以降の談話で明らかになるかもしれないし、明かされないかもしれない。それが何かということは、ここでは特に問題にはしていない。
少し嫌な言い方だが今回の日馬富士の優勝は、白鵬の急降下によるところも大きい。白鵬が調子を落さなければ、優勝は白鵬の手の中に有ったことは事実である。日馬富士の優勝にテンションが上がり切らなかったのは、稀勢の里に完敗したこともさることながら本来乗り越えるべき白鵬が変わり果てた姿だったためだ。
白鵬が敗れた時、相手力士は大抵最高の相撲を取る。先場所の隠岐の海も、嘉風もそうだった。だが、今場所の3連敗はそのレベルには達していなかった。それが悔しかったのである。
衰えた白鵬が時代を明け渡しても、カタルシスは生まれない。ただ白鵬を倒せばよいということではない。白鵬スタイルを打ち破って初めて、次世代へのバトンタッチが見えてくる。
2020年まで現役を続けると話していたではないか。
40回の優勝を目標にしていると言っていたではないか。
衰えてきた白鵬に寄り添う形で共感などしたくはない。白鵬が孤高だからこそ産み出すジレンマや摩擦にこそ、白鵬の物語が有る。そして絶対王者に向き合う力士達にも、物語が生まれる。
初場所でもまた、どう解釈すればよいか分からない相撲を取って欲しい。そして、さんざん考えさせて欲しい。更には、そういう白鵬を乗り越えるためのストーリーにも肩入れさせて欲しい。
私が白鵬に求めるのは、そういうことである。
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追記:
文中で櫓投げから播磨投げに訂正しております。
ご指摘ありがとうございます。

強い白鵬を倒すからこそ、物語は生まれる。思わぬ九州場所の結末に今一つ乗り切れなかった理由を考える。” に対して1件のコメントがあります。

  1. penag より:

    白鵬はもう播磨投げもやってたんでしたか。
    知りませんでした。

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