世間よ、相撲を舐めるな。第一回:相撲 VS ボディビル
私は怒っている。
相撲に半笑いの世間に対して怒っている。
デブ。
チョンマゲ。
フンドシ。
この話をされる度にうんざりする。そしていつも思う。「またそこですか」と。適当に聞き流しているものの、後日また同じ目に遭う。いいじゃないかよ、こっちは面白いと思って相撲観てんだよ。何故その勝手な物差しで半笑いにされなければならないのか。
そしてそうした意見の中で、見過ごせないものが中には有る。それは大いなる誤解なので、相撲を愛する者として晴らさねばならない。
「相撲取りはデブだから、筋肉モリモリの奴の方が強いに決まってんじゃん。」
…なるほど。
分からないでもない意見だ。
力士というのは確かに筋肉量が尋常ではないのだが、では果たして力士を力士たらしめている、あの脂肪の存在は果たして如何なるものなのか。脂肪をある程度排除して筋肉比率を高めた方が無駄が無く、動けるのではないか?
もしこの仮説が正しいとしたら、力士はこぞって脂肪を落す方向でトレーニングするはずだ。確かに筋肉質の力士は居る。だが、力士というのは基本的にいわゆる力士の額縁の中から抜けない存在だ。力士は強いかもしれない。だが、筋肉モリモリの力士が居たらさてどうなるのか。
これは、一つのロマンである。
誰もが一度は考える仮説だ。
本当にやったとしたら一体どんなことになるのか。
力士 VS マッチョマン。
漫画のようなドリームマッチである。
しかし今相撲界には、なんと元ボディビルダーの力士が存在している。ドリームマッチは、実は既に実現しているのである。
朝山端。
その名の通り、高砂部屋の力士である。
2015年に角界入りした、23歳の新鋭だ。
まずはこの体を見て欲しい。
これは力士のそれではない。確かにボディビルダーの肉体である。圧倒的な筋肉量を誇る彼はデビュー当時で182センチ129キロ。脂肪の比率を考えると、見事なまでの筋肉モリモリぶりではないか。ちなみにこの朝山端は、相撲未経験者である。
筋肉は果たして力士を凌駕するのだろうか。もしこの朝山端が大相撲である程度通用したならば、身体づくりに革命が起きることだろう。脂肪よりも筋肉を優先したそれにシフトしたならば、新たな時代の幕が開く。相撲古来の造形の美も有るが、もしボディビルが一つの選択肢となったとしたら、2016年に受け入れやすい力士が増えるのではないかと思う。
これはちょっと期待したい。だが、さすがに23歳で相撲未経験。相撲に特化しない身体づくりでどこまで通用するのだろうか。いずれにしても、ロマンという言葉でしか言い表せない力士であることは間違いない。
3月に前相撲、5月に序ノ口でデビューした朝山端。果たして大相撲を1年あまり経験し、彼は一体どうなっているのだろうか。その成績は、以下の通りである。
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平成27年05月 西口25 6勝1敗
平成27年07月 西二47 5勝2敗
平成27年09月 東二14 6勝1敗
平成27年11月 西三52 3勝4敗
平成28年01月 東三65 3勝4敗
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三段目までの駆け上がり方は見事だ。未経験者がここまで出来るのかと素直に驚いた。さすがに幕下を見ている私なので、相撲観経験者のボディビルダーがいきなり幕下クラスの実力を持たれてもそれはそれで困ってしまう。
とはいえ、三段目の真ん中くらいで十分にやれるだけの実力は有る。この番付は、相撲界で言えば大体真ん中だ。そこからが一つの壁なのだが、しかしそれでもボディビル出身の可能性は確かに見えている。
私はこの朝山端を秋場所の前に平塚の合宿で見たことが有る。あの時はあまり感じなかったのだが、今にしてみると一つ驚いたことが有る。力士としての動きがある程度出来ていたのだ。
違和感無く見ていたことが、実はかなり凄いことだったのではないかと思う。そして体つきもボディビルのそれではなく、力士として丸みを帯びたものになっていたのである。
朝山端の強さのベースには、ボディビルで培った肉体の強さが有ることは間違いない。だがそれ以上に相撲を吸収し、適応するために努力を重ねる姿勢こそが朝山端の強さではないかと思う。これはボディビルの強さではない。朝山端とボディビルダーの強さである。
なお、以前もブログに掲載した話だが、今十両の朝弁慶の体が一回り大きくなったのは朝山端のボディビルのノウハウを採り入れたことが一つの理由という話を聞いている。朝弁慶の体はボディビルダーのそれとは遠いが、ボディビルは一つの可能性を相撲界で見せていると言っても過言ではない。
相撲界で見せる、ボディビルダーの可能性。
朝山端のこれからに期待したい。
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“世間よ、相撲を舐めるな。第一回:相撲 VS ボディビル” に対して1件のコメントがあります。
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北勝力の失敗で、筋肉への過剰な信仰は否定されている物だとばかり思っていましたが、また再燃してきたんですか??