驚愕の連続の白鵬杯で見えた、大相撲の近未来。前編

「ニシオさん、白鵬杯は絶対行った方がいいですよ。」
確かに複数の方からそうした言葉を聞いてきた経緯が有った。ご存知無い方のために説明すると、「白鵬杯」とは白鵬が実行委員会名誉会長を務める小中学生の相撲大会のことである。
2年前の佐藤祥子さんの記事が詳しいので、興味が有る方はご参照頂きたい。
そして豊真将引退相撲の翌日、私は両国に居た。
数時間の観戦で分かったことが有る。
子供の相撲だからこそ勝負に純粋で、負けると人目を憚らず涙するところやまだまだ相撲になっていないながらも、各自が知恵を絞って攻防を繰り広げる様は大相撲にもアマチュア相撲にも無い第三のジャンルだ。
その面白さは幕下に初めて触れた時の「あの部分」を更に拡大したようなものではないか。至らないからこそ面白い。足りないものを気持ちで補おうとするところ。そしてその中で補い切れないところ。未熟さや物語がスキルやレベルを上回る相撲も有る。
しかし、この大会の面白さは相撲そのものだけではない。
例えば、国技館の入り口を入ってすぐのところにスーパーボールすくいや輪投げのブースが有るのだ。白鵬杯は子供たちの大会だ。故に試合が終わるとどうしても退屈してしまう。これは仕方ないことだ。試合を終えた少年力士達はここに足を運び、思い思いに楽しむ。2016年にスーパーボールすくいと輪投げがどの程度響くのかと少し不安に思ったが、かなりの数の子供が詰め掛けており、その心配は杞憂に終わった。
更にはアマチュアの大会であるにもかかわらず、かなりの数の売店が大相撲開催時同様に営業していたのである。学生選手権やアマチュア選手権の際は確かに売店が使えたのだが、その数には限りが有った。だが、白鵬杯は小中学生が対象なのだがそうしたサービスが想像以上に充実しているのである。白鵬弁当も、ひよちゃん焼きも、いつも通り買える。これは嬉しい想定外である。
考えてみるとマス席は選手と父兄に対して開放されていた。そしてその席には空きが無く、2階席に陣取る父兄さえも存在していた。一体この大会の参加者はどれだけ居るのだろうか。ちなみに東と西のマス席スペースを整理し、普段使用している土俵の脇に二つの簡易土俵を作っていた。こんなことが出来るのかと驚かされた次第だ。
夜勤明けで豊真将引退相撲を観戦した後なので、いい具合に疲れている。子供達の取組を観ながらいい具合に微睡んでいると、耳を疑うアナウンスが流れてきた。
「交通費を受け取っていないチームは、至急来てください」

この大会は交通費が支給されるのか!
確かに参加者の中には奄美大島やモンゴルから来ている方も居た。自己負担ではなかなか厳しいところも有るだろう。ただの全国大会ではなく、そういうレベルに無い子たちでもフランクに参加するための配慮なのだとしたら、これは素晴らしいことだと私は思う。
ただ、その費用は如何なるものなのだろうか。マス席だけではなく2階席まで父兄で埋まるほどの参加者だ。考えただけでも気が遠くなる。
その視点を拡げると、本場所開催と比較してもかなりの人数のスタッフが居たことも驚かされた。そして、多くの現役力士がその辺をうろついていることも驚かされた。想像以上に多くの方の協力の元に開催されている大会なのだ。小中学生の夢のために、多くの大人が尽力している。
入り口には多くの花が飾られていた。そして、テレビで見かける多くの企業が協賛に名を連ねていた。6回目となるこの大会は理想だけでなく、それを現実にするためのノウハウが詰め込まれていたという訳なのである。
15時くらいにサブ土俵を手際良く回収する様子を見ながら、この大会に掛かってきた苦労と情熱を想い、ここまでの規模に成長させてきたスタッフと白鵬にただ感服した。取組後ににこやかにコメントする白鵬を見ながら、この大会が更に回数を重ねられれば良いと心から思った。
さて、白鵬杯の素晴らしさを想いながらも土俵に目をやる。そして、少し退席してトーナメント表を確認する。すると、今後の大相撲を左右するであろう二つの事実が見えてきた。
後編へ続く。
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