宝富士の成長。四つ相撲は三十路を前に光を放つ。

私は永年、力士が持つ特徴は若い頃から引退まで変わらぬものだと理解してきた。
例えば、ツラ相撲という言葉がある。勝てば手がつけられないが、負けると泥沼にはまってしまうタイプを指している。突き押し相撲の力士によく見られるもので、闘争心を前面に出すことが特徴だ。
最近であれば琴勇輝がこれに該当する。
このタイプは絶好調になれば相手が横綱でも関係ない。触れるもの皆吹き飛ばすような、スーパーマリオがスターを取った時のような無敵感が有る。だが一度負け始めると、相手が誰でも関係なくなす術無く敗れてしまう。敵は相手ではなく、自分自身という構図である。
例えば、下位に滅法強い力士が居る。幕内の上位総当たりラインでは大きく負け越すが、番付を落とすと2桁勝って番付を大きく上げる。そして、上位で大きく負け越す。というアップダウンを繰り返すのが特徴だ。
最近であれば逸ノ城がこれに該当する。
このタイプは、成績が相手に依存する。強い相手が出てくると良いところが出せずに終わることが多いが、格下が出てくるとあっさり勝つ。一言で表すと、淡白なのである。
これは力士の持つ特徴なので、全盛期を迎えても晩年になっても傾向としては基本的に同じだ。また、日馬富士のように加齢とともに爆発力を失う反面で安定してくるという特徴を出すこともある。これもまた、共通して見られる傾向だ。傾向や特徴は力士を「そういうものだ」という視点で見せることになる。だが、怖いのが「そういうものだ」が悪い意味でのレッテルを張ることだ。
連敗すると長い。
上位に勝てない。
このように言い続けることが、観ている側にも力士の側にも一種の暗示をしてしまうことになりかねないのではないかと思うのだ。傾向や特徴は楽しく観るためのものであって、極端に可能性を限定するようなものではない。
しかし最近、少しこの考え方を良い意味で改めることになった。
きっかけは、宝富士だった。
宝富士は上位総当たりの番付に昇進してからというもの、似たような成績を上げてきた。横綱大関との対戦が重なる序盤はほぼ全敗、平幕との対戦がメインの後半は白星が並ぶというものだ。
平幕に勝つ実力が有ることよりも、上位に勝てないこと。それも、良いところが見せられずに負けていくこと。それがもどかしかった。白鵬が強さを見せる中、序盤で負けの込んだ力士と対戦すると可能性が見出せない。大相撲の閉塞感をある意味で象徴するような取組だったように感じていた。
どうやっても勝てる形を作れない。
形を作るどころか、簡単に形を作らせてしまう。
数秒で勝負が決まる。
このような繰り返しだったように思う。
宝富士は20代後半の力士だ。
力士というのは若ければ若いほど劇的に伸びるチャンスが残されている。
言い換えると、あくまでも傾向だが、歳を重ねると成長するというよりは実力を維持することが多い。
そのため、恐らく宝富士はこのような力士として上位での負け越しと下位での勝ち越しを繰り返す力士として定着するものだと感じていた。
だが、宝富士は変わった。
上位で勝てるようになったのだ。
序盤でも勝ち星が並ぶ。元々得意な豪栄道には今も強く、相性の悪かった琴奨菊にも勝てるようになった。そして何より、白鵬にも勝っている。
相撲内容も見事だ。
勝ちを自ら掴みに行く。そして、勝ちをもぎ取る。序盤に有りがちな、調子が出ない上位の自滅ではないのである。左四つになると、館内が湧く。宝富士の態勢が安定し、相手が危ないのが素人目にも分かる。それほどこの形は絶対的なのである。
その結果が、新関脇ということなのだと思う。地道に伸びてきた宝富士が、傾向という名の呪縛を打ち破った様は美しく見える。傾向すらも破る力が有れば、まだまだ変わる可能性が有るのではないかと思うのだ。
しかしこれは、宝富士に限った特徴ではない。
隠岐の海も、魁聖も、似た軌跡を辿っているのである。
今場所は番付を落としているが、勢も然りだ。
彼らには共通点が有る。
アラサーだということ。
かつては上位で歯がたたなかっこと。
そして、四つ相撲だということである。
彼らは、長い時間を掛けて少しずつ成長し、上位を相手に勝てるようになった。若手力士が怪我で伸び悩む中、幕内上位の座を彼らが掴むことになったのである。若手が定着しないことで上位との対戦するチャンスを掴み、繰り返し対戦することによってついに変わることに成功したと言えるのかもしれない。
四つ相撲が強いのは、成績が安定するということだ。相手を見られるので自分の形を作れば勝つチャンスは広がるし、劣勢でも巻き返す機会は残されている。そして、相手の自滅を呼び込むのも四つ相撲の強さの一つである。
一度相撲を覚えると強い。
だが、覚えるまでが長い。
もしかすると2016年の大相撲で一番成長する可能性が有るのは、彼らなのかもしれない。傾向は変わるものだ。近い将来、四つ相撲の力士が上位を相手に歯がたたないところを目の当たりにした時、宝富士を重ねて明るい未来を語る時代が来るかもしれない。そういう可能性を、宝富士達は切り開いたのである。
アラサーの四つ相撲がどのような可能性を見せるか、見ものだ。そして私はアラサーの四つ相撲で、傾向を破れない一人の力士のことを思い出さずにはいられない。
宝富士は変わった。
稀勢の里もまた、変われるのである。
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