白鵬杯に見る、相撲協会が白鵬を失ってはならぬ理由。
白鵬は、これからの相撲協会に必要だ。
その想いを強くして、私は国技館を後にした。
白鵬杯。
白鵬が提唱し今年で7年目を迎える、中学生以下の相撲大会だ。詳細は昨年の記事を参照していただきたい。
取組が終わった少年力士が退屈しないようにアトラクションを用意し、大会に出やすいように交通費を支給し、誰でも参加できるオープン参加の大会を開催することで底辺拡大を目指す。
今年は実に1260名の選手が日本は勿論、モンゴルやアメリカ、中国に韓国、果てはタイに至るまでこの大会の為に集結している。相撲に馴染みの無い国まで引き込める大会に成長したのかと思うと、感慨深いものがあった。
埼玉や船橋といった、昨年まではあまり見ることがなかった地域のチームが上位に選手を輩出したり、逆にモンゴル勢の予選落ちが増え、決勝トーナメントでもなかなか勝てないという、将来の相撲を占う上での変化も大変興味深いものがあり、試合そっちのけでトーナメント表を凝視し続けた私なのだが、会場に戻ると土俵外で興味深い光景を目の当たりにした。
白鵬が、常に誰かと談笑しているのだ。
予選の取組が進行する中、白鵬は取組を見ながらも入れ替わり立ち替わり来る方に丁寧に対応し続けた。一体どれだけ多くの方と話していただろうか。少なくとも私が見ている限り、白鵬の側から人が消えることは最後まで無かった。
私は確信した。
白鵬は、人を惹きつける力士であり、人間だ。
力士として惹きつけるのはわかる。素晴らしい取組は星の数ほど観ている。強過ぎるがために白鵬の立場からも対戦力士の視点からも分析し続けてしまうのは、白鵬の力士としての偉大さ故である。
だが私が今日見たのは、人間としての白鵬についてだ。
誰もが白鵬を慕い、白鵬のために協力する。力士や親方もだけではない。総合演出は放送作家の鈴木おさむだ。そして、メインスポンサーにはSANKYOが付いている。
それだけではない。
この大会を支えるために、実に多くの方が国技館に駆け付けている。昨日私は大阪からこの大会のスタッフとして駆け付けている方とお会いする機会に恵まれた。朝7時からという大変早いスタートでありながら、労を惜しむ様子は微塵もなかった。そして彼の口から出たのは、白鵬への賛辞ばかりだったのである。
これだけ多くの人からの協力を受けられる人間が、大相撲の世界に果たして居るだろうか。知名度が有り、実績があり、人間性まで兼ね備えていなければ、このようなところまで達することはないだろう。
そう。
人間:白鵬はそれほど魅力的なのである。
だが私が冒頭の想いを抱いたのは、それだけが理由ではない。
私は決して白鵬が素晴らしい人間であり、素晴らしい実績を残したからこそ、感情論の問題で特例で親方として相撲協会に残して欲しいと言っているのではない。
相撲協会が白鵬を失ってはいけない理由。それは、白鵬がこれからの相撲協会を描き、自ら行動し、更にはそのビジョンで人を動かすことが出来る優れたリーダーシップを持つからである。
相撲協会を支えるのは、親方だ。
親方はもともと力士である。
つまり、競技者の視点は有る。
そして、部屋の経営者としての視点も有る。
だが、相撲協会が相撲界全体を変えるために行動できていないのには理由が有る。それは相撲界全体を意識し、問題点を理解した上で将来のビジョンを描き、施策を展開できる人材が居ないからだ。
白鵬が白鵬杯で体現しているのは、つまりそういうことなのである。
驚くべきは白鵬が現役力士でありながら、横綱という立場でありながら、既に相撲界のリーダーとしてこうした行動を実践しているだけでなく、成果を残しているということだ。
今、大相撲がすべきことは大きく分けて二つある。
それはファン層の拡大と、次世代の育成である。
ファン層の拡大は究極的には現役力士が良い相撲を取ることでしか達成し難い課題である。戦略的に引き込んでも、面白くなければ人は離れてしまうからだ。
ただ、次世代の育成については、力士の自助努力だけではいかんともし難い課題だ。何故なら優れた力士に成り得る素材を引き入れなければいけないからである。白鵬が白鵬杯で見据えているのは、まさにこの課題についてだ。
本来であればこうした施策は、相撲協会が進めるべきことだ。だが、北の湖さんが亡くなって以降、土俵の充実という言葉は聞こえてくるが、現在の力士達を育成するための施策も見えなければ、将来の土俵の充実を見据えた施策も見えない。
唯一白鵬だけが相撲界の将来のために、行動を起こしている。
それが実情なのだ。
もし白鵬が居なければ、相撲協会は一体どうなってしまうのか。そういう危機意識をどれだけの親方が抱き、抱くだけではなく実際に行動しているというのだろうか。出来ているのは、恐らく出身地域での草の根レベルの対応だけだろう。
白鵬は、これからの相撲協会のために必要だ。
それも、次代の大相撲を作るためのリーダーとして。
それを再認識出来た今日は、本当にいい日である。
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