鳴戸親方の急死と報道姿勢。

鳴戸親方が急死した。
今年で31歳の私にとって物心ついた時には既に
千代の富士が独り横綱だったため、
「隆の里」というよりは「鳴戸親方」と言った方が
遥かにピンと来る存在である。
若の里や稀勢の里の師匠という実績もさることながら
幕下ファンとしては絶対に外せない、
あの隆の山を手塩を掛けて育てたという一点だけ
フォーカスしても今回の一件はショッキングだ。
その冥福を祈るとともに残された弟子達の
活躍を祈らずには居られないわけだが、
どうしても気になる点がある。
そう。
マスコミの報道姿勢である。

稀代の名力士として、そして名伯楽の急死というよりは
それと同じくらいの比率で弟子の暴行疑惑を報じている。
確かに暴行疑惑や隆の山のインスリン疑惑という
スキャンダラスな話題が最近浮上してはいるのだが、
むしろ鳴戸親方の死というよりは
相撲界の闇を暴くというような論調の方が強く、
鳴戸親方をダシにして相撲界を批判したいだけではないか？
とさえ思ってしまうのである。
それ自体の是非はともかくとして、
今まで相撲界に於ける暴力を伴った指導というのは
日常的に行われてきていて、
数年前も相撲部屋に密着するという類の
テレビ番組で竹刀で弟子をぶっ叩く光景は
お茶の間ですら目にすることは可能な有様であった。
つまり、今まで当たり前だったことが
いつの間にか有ってはならないこととして
扱われるようになった事実が浮かび上がってくるのである。
しかし、ここで考えてほしい。
相撲界ではこうしたことが近年批判の的になっているが
野球界で同じことをしたとしても、その時は
「愛のムチ」や「鉄拳制裁」という形で
その責任を問うどころか指導の一環として
報じる側も流しているのだ。
相撲界では許されない。
だが、野球界では許される。
この違いは一体何だろうか？
はっきり違うのは、報じる側の問題意識である。
相撲界は今、非常に厳しい立場に有り、
それ故ネガティブな話題に対して報道側も
非常に敏感になっている。
また、相撲を叩くという行為についても、
別にスポンサーだのバックに付いている団体を
あまり気にする必要も無い。
そしてもう一つ。
とても気になるのが、こうした報道をするテンションが
相撲自体をバカにしているということである。
本当に相撲界を良くしたいのであれば
おどろおどろしい音楽を乗せて番組を作るだろうか？
本当に相撲界を良くしたければ
不要な嫌味をコメントの後ろに上乗せするだろうか？
勿論近年の不祥事は責められるべきものだし、
相撲界が変わらなくてはならないのは間違いない。
だが、報じる側のリスペクトが無い状態で
単に安易に叩ける存在だからという理由で
叩かれては相撲ファンとしては困るのである。
かつて相撲は強さの象徴だった。
力士は尊敬を集め、例えば大鵬は
巨人・卵焼きと並列で語られていた。
競技としての尊敬。
強さへの羨望。
いつからこうした要素が失われてしまったのか。
私はそれが悲しい。