何故若手力士は、四つ相撲を取らないのか。後編

最近の相撲を観て思うこと。それは、
四つ相撲を取る力士が激減しているということだ。
前を捌いての速攻もいい。
きっぷの良い突き押しも好きだ。
だが、コンディションに左右されるのがスピード相撲の特徴だ。逆に、相撲の流れの中で逆転の機会が多く残されているので、成績が安定しやすいのが四つ相撲の特徴と言えるだろう。怪我も相対的に少ないので、15日をトータルで見た時の安定感もさることながら数年先を見据えた上での安定感ももたらすことになる。
速い相撲が悪いわけではない。むしろこれは向き不向きがあるので、自分に有ったスタイルを選択することが重要だと思う。
ただ、四つ相撲が近年姿を消しつつある実情を考えると、四つ相撲に適性の有る力士が可能性を閉じられることもありうるのでは無いだろうか。これは大変勿体無いことだ。
ではなぜ、四つ相撲は激減しているのか。関係者に話を聞いてみると、実に興味深い回答が有った。
まず私は、アマチュア相撲の指導者の方に話を聞いてみた。力士としてのルーツは、アマチュア相撲に有る。アマチュア相撲に於ける四つ相撲とは、今どのような状況なのだろうか。
私はこの質問をぶつけてみた。彼は四つ相撲が激減していることに同意しながら、こんな話をしてくれた。
「今、四つ相撲を教えられる指導者が居ないんですよ。」
そもそも教えられないのであれば、四つを勧めることも出来ない。なるほど。そういうことか。
考えてみると、指導者の多くは五十代以下だ。学生相撲を経験している方が大半を占めているのだが、その学生相撲に目を向けてみると、30年前から既にスピード相撲が主流なのである。
出島も武双山もそうだが、この時代から既に学生相撲出身力士は四つ相撲が主軸ではない。そして2017年の相撲界でも四つ相撲主体のスタイルの力士は、宝富士くらいしか居ないのである。
相撲というのは少し特殊で、学校や指導者のスタイルに力士が合わせる形を取る。故に学生時代に突き押し相撲を覚えた場合、突き押しが伸ばせる相撲部屋を選ぶことになる。
今の指導者が現役の頃から四つ相撲を選択していないのだから、当然彼らは四つではなく自分の形を生徒に伝えることになる。学生相撲出身者が草の根レベルで増えていることが、今の相撲の潮流を生み出している要因であるとは思いもよらなかった。
では、プロの世界に入るとどうなるのだろうか。元力士の方に同じ質問をしてみると、彼はこう答えた。
「四つはいつでも取れるから、前に出る相撲を先に覚えさせるんです。番付が上がってから四つを取ろうとすると、『まだ早い』と言われる。気がつくと自分のスタイルが出来ていて、もう四つを取れなくなっているんですよ。」
確かに、貴乃花部屋の双子についても同じ話を聞いたことがある。
彼らの場合は四つを活かすために突っ張りを磨いているそうだ。貴源治と貴公俊は若手の中でも数少ない四つ相撲の使い手であり、師匠である貴乃花親方が四つ相撲のノウハウを持つのでこういうことができる。彼らに対する期待が大きいのは単に若いだけでなく、四つが取れるという強みが有るからでもあると思う。
ただ、他の相撲部屋ではなかなかそうはいかないのが実情だ。アマチュア時代のベースが突き押しであれば、歳を重ねれば重ねるほど新しいスタイルを構築しづらくなるのは致し方ないことだろう。
相撲部屋の師匠の立場を考えると、前に出る相撲を磨いた上で四つというのは正しい方針だと思う。出る力が有って初めて四つが活きるのだから、それは当然のことだ。
とはいえ、勝てるひとつのスタイルがこうした事情から構築できなくなってきているのであるとすると、果たしてどうするのが正しいのだろうか。相撲の潮流や今回の話を聞く限りでは、四つは更に姿を消すことになるのではないかと思う。
四つが全てではない。
だが、四つ相撲は勝つための文化だ。
アマチュアもプロももう一度四つ相撲に向き合い、どのように指導すればよいか考える時期に来ているのではないかと思う。
一度廃れると、再興は難しい。
だから、今なのだ。
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何故若手力士は、四つ相撲を取らないのか。後編” に対して1件のコメントがあります。

  1. 小暮 武 より:

    今初場所中ですが、昨今の相撲は押しとツッパリばかりで全く面白くないです。こんな状態では見る人がいなくなってしまうのではないでしょうか。もっと本来の4っ相撲をとるようにしてもらいたいと考えます。協会全体で考えていただきたいものです。

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