【吐合速報】負けられない吐合、譲れない里山。
元学生横綱でありながら、入門して間もなく
力士生命を揺るがす大怪我を負い、
番付外への転落という憂き目を味わった、吐合。
8年の雌伏の時を経て、初場所の吐合は
今までの思いを爆発させるような
凄まじい快進撃を見せる。
6連勝で迎えた13日目の相手は、幕下筆頭の里山。
勝った者が、十両昇進。
言うまでも無く、十両は力士にとっての目標である。
誰もがその地位を目指し、過酷な稽古に挑む。
生活の全てを相撲に捧げ、
彼等にとっては食べることすら仕事である。
不甲斐ない相撲を取れば先輩や親方から
容赦の無い罵声を、時にはかわいがりと称される
度を越した体罰を受ける。
給料はゼロ。
大部屋での生活。
社会人としての権利の無い
相撲界の徹底的なカースト制度は、
特権階級たる関取への昇進を渇望させる。
だが、そうしたヒエラルキー的な側面もさることながら、
力士として一端の存在というステータスとして
そして強さの証明として十両への昇進というのは
特別な意味を持つことになる。
大学卒業当初は十両に足る実力を備えながら怪我が全てを変え、
当時の相撲を取れなくなった吐合にとって
十両というのは特別な地位であることは間違いない。
今日の結果が全てを変える。
吐合は、里山に挑んだ。
今場所一番という素晴らしい内容。
気持ちも、技術も、全てが噛み合ったベストバウト。
互いに死力を尽くした、正に死闘であった。
だが、吐合は敗れた。
何故吐合は敗れたのか?
それは、里山にも背負うものがあったからである。
6年前に十両昇進し、2年余り十両を経験しながら
幕下に陥落。
4年間の挫折を経て、ようやく十両再昇進したものの、
僅か2場所で陥落。
里山は30歳。
そして3勝3敗。
この機会を逃せば更に十両は遠のく。
更に、里山の場合はもうひとつの事情が有る。
そう。
親方株の取得、である。
親方株は一定期間の関取経験が無ければ
取得する権利すら得られない。
30歳を過ぎれば、一般的に力士は
上積みを期待することは難しいため、
現在の実力を維持できる今こそ、
十両在位期間を延ばすラストチャンスなのである。
8年の雌伏 VS 4年間の挫折。
元学生横綱 VS 元十両。
2人の対決は、只の力士の対決ではない。
イデオロギーとイデオロギーの激突であり、
彼等の歴史の勝負でもあるのだ。
負けられない吐合と譲れない里山の対戦は、
相撲という競技の奥深さを嫌でも感じさせる
素晴らしい死闘であった。
この対戦に勝者は居ない。
どちらも勝者である。
なんていうことを言う人が居るかもしれない。
そのように称えたい気持ちもよく判る。
だが勝者は里山であり、敗者は吐合である。
何故なら里山は来場所十両昇進するが、
吐合は幕下で再度勝負することになるのだから。
素晴らしい記事でした。お互いの実人生の物語が交錯し、その火花が大きければ大きいほど人は振り向きます。この二人の火花は世間には届かなかったかもしれない。派手なものではなかったかもしれない。しかしその火花は確かに存在し、二人の物語はまだ続いていくでしょう。