【データ検証】大関に求められる成績とは?
琴欧洲休場問題を引き金として、大関の実力について
意見が交わされている。
とある横綱審議委員は10勝を一つのラインとして
これを下回った場合は自動的に降格としよう
という提案をしている。
大関とは横綱に次ぐ実力者で、
相撲界の顔としての活躍が求められる立場であり、
そう考えると10勝を一つのラインとして考えるのも
一つの見方である。
毎場所優勝を争い、取りこぼしは許されない
立場であるからこそ、厳しい立場に晒されるのは
致し方ないことではある。
私達は大関に多くを求めているが、
いつの時代も大関はそれに達しない時が多いが故に
批判されている。
大関として求められる水準を常に満たす力士は
大関を通り越して横綱になるのが常なのだ。
そこで、ここで一つの疑問が出てくる。
そう。
大関として現実的にどの程度の水準が求められるか?
ということである。
私はここで二つのアプローチを持って
この疑問に対する解を求めてみた。
第一に、過去の大関の勝率である。
戦後の大関(横綱昇進者を除く)について、
在位期間の勝率を以下にまとめた。
◆大関在位中勝率◆
力士 勝 負 勝率
鶴竜 8 7 53%
稀勢里 31 14 69%
琴奨菊 38 22 63%
把瑠都 122 58 68%
日富士 184 105 64%
琴光喜 141 104 58%
琴欧州 325 219 60%
栃東 207 125 62%
魁皇 524 328 62%
雅山 57 58 50%
武双山 186 148 56%
出島 100 71 58%
千大海 515 345 60%
貴ノ浪 353 194 65%
霧島 139 76 65%
小錦 345 197 64%
北天佑 378 245 61%
朝潮 294 203 59%
若島津 356 219 62%
琴風 212 110 66%
増位山 44 44 50%
旭國 168 122 58%
魁傑 70 65 52%
大受 30 32 48%
貴ノ花 422 278 60%
大麒麟 189 132 59%
前乃山 67 56 54%
清國 233 147 61%
豊山 301 201 60%
栃光 188 131 59%
北葉山 250 179 58%
若羽黒 102 78 57%
琴ヶ濱 185 152 55%
合計 6764 4465 60%
驚くべきことに高くても70%に満たない、
低水準だと50%を僅かに上回る程度
という衝撃的な結果が導き出されてしまった。
戦後の大関の平均勝率は、60%。
一場所の取組数は、15回。
1番辺り0.6勝が期待されるとなれば、これに15を掛けると
この成績から導き出される、平均的な大関の1場所の成績が算出される。
それは、クンロクということである。
◆計算式:15(取組)×0.6(1回の取組に於ける期待値)=9(勝/場所)
そもそも大関の平均的な成績がクンロクだとすると、
これが適正値と言わざるを得ない。
もしこの成績が足りないというのであれば、
大関に対する降格のラインを再考する必要がある。
だが、ここで一つ考えておきたいことが有る。
歴代の力士について、必ずしも同条件ではないということである。
時代によって横綱の数も違うし、大関の数も異なる。
ましてや現在は大関が6名存在しており、
この条件の中でクンロクがキープ可能かと言われると
大いに疑問と言わざるを得ないからだ。
そこで、現在の大関6名ならびに過去の大関の中から
その時代の中で成績優秀な6名(栃東、貴ノ浪、小錦、琴風、貴ノ花、清國)
を加えたメンバーの大関在籍時の地位別(対横綱、大関、関脇、小結、前頭)の
勝率を算出し、その平均値に対して現在の対戦が予想される機会を掛け合わせて
現実的にどの程度の成績が期待されるかを計算した。
※なお、以下の成績について途中休場場所は対象外としている。
◆地位別対戦勝率◆
力士 横綱 大関 関脇 小結 前頭
鶴竜 0% 40% 100% 50% 60%
稀勢里 33% 54% 83% 83% 69%
琴奨菊 0% 42% 63% 88% 75%
把瑠都 17% 46% 64% 83% 84%
日富士 32% 61% 64% 72% 73%
琴欧州 24% 58% 50% 65% 73%
栃東 41% 51% 58% 69% 78%
貴ノ浪 14% 45% 60% 69% 77%
小錦 57% 43% 59% 66% 79%
琴風 11% 62% 59% 92% 81%
貴ノ花 21% 59% 55% 65% 73%
清國 24% 47% 67% 66% 77%
平均 24% 53% 59% 71% 76%
これに来場所対戦が予想される対戦数を掛け合わせる。
※対大関の勝率は自動的に50%になるため、上記とは異なるが
今回は50%を掛け合わせる。
横綱(1名×0,24)+大関(5名×0.5)+関脇(2名×0.59)+
小結(2名×0.71)+前頭(5名×0.76)=9.29(勝/場所)
つまり、現在の番付の中で大関に期待される勝利数は、
大体9勝ということである。
前頭との対戦が多い番付であれば、相対的に勝率も向上するのだが、
現在の状況では大関と対戦する機会が多く、
それだけ敗れる確立も高まってしまう。
ちなみに貴ノ浪や小錦の時代については
横綱大関数がそもそも少なく、
彼等は1場所辺り前頭との対戦が10回程度有ったのだが、
現在の大関達は前頭と5回しか対戦できない。
◆大関別 1場所あたりの地位別対戦回数
力士 横綱 大関 関脇 小結 前頭
鶴竜 1 5 2 2 5
稀勢里 1 4.75 2 2 6.25
琴奨菊 1 3 2 2 8.5
把瑠都 1 2.90 2.07 1.98 8.86
日馬士 1.31 3.21 1.89 1.89 8.47
琴欧州 1.31 2.37 1.58 1.79 9.66
栃東 0.85 2.35 1.8 1.95 9.90
貴ノ浪 0.72 1 1.65 1.79 11.55
小錦 1.15 1.15 1.95 2.05 10.64
琴風 1.80 1.95 2.05 1.90 9.08
貴ノ花 1.82 1.35 1.91 1.95 9.86
清國 1.54 2.12 2.25 2.08 8.99
平均 1.21 2.59 1.94 1.96 8.89
また、貴ノ浪については二子山部屋だったことも有り、
貴乃花や若乃花はおろか、実力者である貴闘力や安芸乃島など、
3役力士との対戦も少ないため、敗れる確率が相対的に減少する。
大関が多いという状況は、それだけ
敗れやすいということを意味しており、
たとえ実力が有ってもクンロク・ハチナナになる危険性が
非常に高いのである。
このような状況であることを理解するのとしないのとでは
大関に対する見方も異なる。
勿論大関の役割が状況に応じて変わるわけではないので、
あくまでも一つの指針としてこのデータを見て頂ければ幸いである。
素晴らしいデータですね。途方もない労力が、かかっていますね。横綱審議委員会の方に是非見ていただきたい。
前乃山、大麒麟、清国懐かしい(涙)。
私も同じようなデーターを提示したことがありますが。相撲に詳しくない人は「昔の大関は最低でも10勝していたし、横綱は12勝は必ずしていた」と思い込んでいるんですよね。
でも横審のメンバーが昔のことを勉強もせず思い込みだけでこんなことをいうなんて信じられないくらい程度の低い発言ですね。
少し前でも横審の委員が「1場所に3敗したら横綱に資格はない」などといっていたこともありましたね。
勝率0.800で1場所12勝(平均)。これをクリアしているものが全体の1/3にも満たないという事、3敗したら資格がないのなら最低13勝ということですよね、平均13勝でも現役の白鵬を除けば双葉山ただ一人ということ。最低13勝どころか最低12勝を確実にあげていた横綱は過去にも皆無であること。
知らない人間が偉そうにいうのが今の相撲を取り巻く状況。
相撲の人気の低迷は無責任&無知な者たちが知ったかぶりの批判を繰り返して現役の力士に過度な要求や理不尽な批判、バッシングを行うことも一因ではないでしょうかね・・・。
検証お疲れ様です.
大関は平均9勝というのは,そもそも大関には負け越しが許されるのですから,決して低い数字ではないと思います.しかし,我々が大関に求める成績が9勝である,という数字でもないと思います.
そもそも,大関昇進の条件が平均11勝なのに,大関になった後平均9勝になる,降格の条件が2場所連続負け越し,というこの温度差が問題なのではないでしょうか?
6大関,平幕優勝という結果は,横綱のような存在が少ないことと,そのような昇進・降格条件の結果だと思います.
大関は横綱ほどではありませんが,「負けない」ことを求められる存在です.それが大相撲の人気にも繋がります.
例えば,大関存続条件として3場所で10勝以上(または11勝)が2回という風にするのはどうでしょうか.いずれにしても,今の降格条件は見直した方が良いと思います.
いつもたのしく読ませていただいております。ただ、今回の記事については、ちょっと疑問に感じる点がないではありません。
「地位別対戦勝率」をもとにして大関にふさわしい成績を考えた場合、「横綱・大関の数を増やせば増やすほど、大関に期待される勝率が下がる」という現象が起きます。
極端な話、たとえば「幕内定員42名=20横綱・18大関・2関脇・2小結」みたいないびつな番付を想定した場合(制度上は可能なはず)、大関に求められる勝率はざっと4割程度という話になってしまいます。
なので「大関にふさわしくない力士が大関になってしまっている」「レベルの低い大関を減らしたい」と考えているひとに対して、この議論は「やたら増えすぎた大関を甘やかすだけ」と受け止められてしまい、やや説得力が弱いような気がします。
>287057さん
コメントありがとうございます。
現在の定員数(実力者が多い)だと
成績がそもそも低下してしまうということが
数値化できたので、とてもよかったです。
>ウインストンさん
コメントありがとうございます。
大関には10勝って、誰が何の根拠で言い始めたんでしょうかね。
多分2ケタ有るとたくさん勝っているという印象を受けるから
ではないかと思います。
(実際10勝程度では優勝争いに絡めていないんですが…)
根拠なき主張について根拠に基づいて分析し、
妥当な落とし所を見つけていくことが
データ分析の目的ですので、ある程度それが見えたのが
今回の収穫です。
横綱審議委員会って、何が楽しくていちゃもんつけるんですかね。
主張することそのものが目的になっているように思います。
>きのこの山さん
コメントありがとうございます。
いい名前ですね。
さて、今回のデータについては
平均的な大関が現在の力士分布で相撲を取ったら
どの程度勝てるか検証してみた、
ということを目的としています。
横綱審議委員の言うところの弱い大関ではなく、
あくまでも平均的な大関が、というところがミソですね。
そして、今場所の結果を持って現在の大関が
決して実力的に劣っているわけではない(全員がクンロク付近)
ことが立証できたため、目的は果たせたかな、と。
それでも「優勝争いをしなくてはいけない」という概念を
主張するのであれば、そもそも大関の昇進要件・
降格要件を提案してもらうしかないですね。。うーむ。
ひとつ質問です。ちょっと意地が悪い読み方をすれば『優秀な大関でも9勝6敗』ではなく、『横綱に昇進できなかったダメ大関の平均が9勝6敗』とも読めるのですが、なぜ横綱に昇進した力士を除外したのでしょう?
今さらながらコメントさせて頂きます。
>ちょっと意地が悪い読み方をすれば『優秀な大関でも9勝6敗』ではなく、『横綱に昇進できなかったダメ大関の平均が9勝6敗』とも読めるのですが、
「横綱に昇進できなかった大関=ダメ大関」という判断はいかがなものでしょうか・?
平均で9勝というと幕の内の力士の平均より1段上の数字ですね。幕の内の平均は一場所あたり6.5勝~7.0勝位のはずですから。
また関脇を長らく維持した力士は準大関の力があるといわれることさえあります。
平均9勝であればダメ大関ではなく、優秀な大関といっていいと思います。
ひとつ思ったのが平均9勝というのは最低9勝ではないということわかってない人も多いのではないでしょうか・・?
また、昇進の条件が平均11勝というご意見もありましたがその条件はマスコミが勝手に言った以外のものではない。
協会も審判部もそのようなものを条件とした事は無い筈ですよね。
大関より陥落した関脇が10勝あげると自動的に復帰するのはなぜか?それは11勝が条件などではないとわかります。
>幕の内の平均は一場所あたり6.5勝~7.0勝位のはずですから。
揚げ足をとるようですいませんが、「幕内全体の平均」という意味であれば、勝ちと負けは基本的には同数になるはずなので、15÷2=7.5勝では? (まあ幕内―十両の取組もあるので、すこしずれるかもしれませんが)