常幸龍が快進撃を続ける理由。
常幸龍が十両トップの成績で快走している。
ご存知の方も多いと思うが、
元々佐久間山という四股名でデビューしたこの力士は
板井の持つデビューからの連勝記録を27に塗り替えた
エリートである。
そもそも大学2年の頃に学生横綱という
経歴を持つ彼が突出した成績を残すことは
取り立てて珍しいことではない。
いや、同級生の千代大龍が既に幕内でも
ある程度の結果を残しているところからも
むしろ本領を発揮し始めた、と表現した方が
適切なのかもしれない。
確かに彼はデビュー以来連勝してきた。
だが、幕下の上位での彼は先手を取られ
もはや絶体絶命というところからの大逆転、
というパターンを持っていた。
十両でも先手を取られる形は変わらず、
幕下では逆転出来ていたのだが、
そのまま土俵を割ってしまうという内容が目立っていたのである。
十両で際立った成績を残すことは、簡単なことではない。
それは幕内から怪我などの影響で陥落してきた力士が
このカテゴリで圧倒できないことからも明白だ。
つまり何が言いたいかと言えば、
今まで幕下でも際立った成績を残してきた
常幸龍ではあるが、連勝が止まる直前・そして
十両入り後の成績を考慮すると壁に当たっていた
ということなのである。
大卒の力士のほぼ全員が、デビューして間もなく
このような状況に陥るのだが、成績がある程度停滞しても、
すぐに幕内まで駆け上る者と幕下に停滞してしまう者とで
大きく別れてしまう。
それは一体なぜなのか。
これは私見なのだが、大卒の力士の中でも
既に突出した存在と、総合力で勝負する存在とで
大別されるということだと理解している。
例えば常幸龍であれば停滞の要因は
アマチュアとプロとの立ち合いの違いに
対応できていないことであった。
そのため先手を取られ、不利な態勢で
土俵際まで追い詰められる。
そこを下半身の強さで凌ぎ、
あとは崩れた相手を上半身の強さで攻め崩す。
つまり、彼の場合は立会いさえ修正すれば
優れた性能を発揮することが可能だった、ということである。
現在の常幸龍は立ち合いがそこまで上手くはないが
そこまで不利な状況に追い込まれることは無くなった。
そうした結果、十両や幕下で長年キャリアを
積んできた力士達、すなわちあらゆる状況に対応出来る
総合力を備えた存在を、突出した力でねじ伏せる形で
勝利出来るようになったのである。
優れた身体能力、他を圧倒する自分の形、
十両や幕内でも勝負できる下地を最初から備えている者であれば
常幸龍のように駆け上がることは可能だが、
逆に十両や幕下に在籍している力士のように
総合力故にアマチュアでも成績を残してきた力士は
彼等を圧倒するためにはどうしても時間が掛かってしまう。
身体が小さく、突き押しの推進力も特筆すべきではない、
しかし相手との間合いを制するための技術に長けている
という特長を持った吐合のような力士は
彼特有の弱点や良さを潰されることで無力化してしまう。
角界入り後の努力を要するタイプの力士か否かは
ある程度様子を見なくては判らない。
実は自分の特性が通用することも有るし、
十両幕下では対応されてしまうそれだという可能性も有る。
それも含めて、角界入りするということは
一つのギャンブルであり、私はこうしたリスクを
考慮した上でも給料ゼロ・大部屋での生活を選んだ
力士達を尊敬する。
出来ることなら全員が成功することを願いたい。
が、そうならないからこそプロの世界は魅力的なのである。