40代の高齢力士が10人余り居る事実。求められる、生き様としての相撲。

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野球界でチャンスが与え続けられることはない

松坂大輔が中日ドラゴンズで初登板を果たした。

松坂世代という言葉は若く才能に満ち溢れた世代という意味から、気が付けば黄昏時を迎えた世代という意味に置き換わっていた。同世代の人間としてはこれほど寂しいことはない。

怪我による不振を経て日本に帰国するも、試合にすら出場できない松坂に世間は厳しかった。もはや松坂は世代のヒーローではなく、高給を受け取りながら試合に出られない卑怯者と批判する者さえ少なくなかった。だから今日の登板は嬉しくもあり、この程度で喜ぶ自分が寂しくもあった。

松坂大輔は実に10年、燻り続けていたのである。

普通、プロスポーツの世界で精彩を欠きながら10年も契約を勝ち取ることは出来ない。10年経ってもまだ期待してくれる球団が無ければマウンドに立つことも出来ない。それでもキレずに続けているからこそ、この登板にこぎ着けることができた。

球団と松坂自身が、10年燻る松坂大輔を信じている。今年38歳という大ベテランにチャンスが与えられることは、奇跡に近いのである。

翻って相撲の世界はどうだろうか。

自らの限界に直面しても、最高位から離れていても、大相撲の世界は自分が辞めると言わなければ現役を続けられる。松坂大輔のような実績が無くてもチャンスが得られる世界だ。

プロのライセンスを得るための実技試験は無い。そして、成績不振によって引退を勧告されることも無いし、機会が減ることもない。極めて特殊な世界なのである。

そこで、現在高齢で現役を続ける力士を調べてみると、興味深いことが分かった。なんと、その多くの最上位が三段目以下なのである。更に驚くべきことに、現在現役を続ける力士の中で40歳を上回る力士は10人あまり居るのだ。

松坂大輔のように過去に栄光がある訳ではない。そして、支えるファンが多いというわけでもない。当然、収入が恵まれている訳ではない。

誰もが思うことだろう。
彼らは何を思い、相撲を取るのだろうか、と。

有名選手であれば、それでも現役を続ける理由は語られる。誰もがそれを注目しているので、誌面上で明らかになる。選手の内面を想いながら、残り少ない、もしかしたら明日終わるかもしれない現役生活の重みを感じ、一際大きな声援を上げることになる。今日の松坂大輔が好意的に受け止められたのは、そういう伝わるドキュメンタリーがマウンド上に有ったからだ。

だが、40代力士達にはそれが無い。
想いは馳せるが、分からない。

一方でこんな話も複数の元力士から聞いたことがある。

「髷を落とせば只の人になる。自分がチヤホヤされるのは力士であることを彼らはよく知っている。相撲しか知らない力士は現役が長くなると辞められなくなるんです」

結局我々は、そういう特殊な背景を持つ力士のことを知る由もない。だから、土俵の態度から生き様を考えるのである。土俵の上では全てが明らかになる。強さも、弱さも、気高さも、狡さも。

幕下の力士は自分を投影するには丁度いい。だが、名も無き松坂大輔達は果たしてどうなのだろうか。今は序の口から中継がある時代だ。好奇の眼差しで見られる彼らは、土俵で生き様を示さねばならない宿命を背負っている。

高齢で伝わらない相撲を取っていれば当然そういう指摘を受けることになる。昔はそういう力士はなかなか居なかったからこそ、人は第二の人生を勧める。

特殊な世界であることが殊更に批判される最近の大相撲ではあるが、特殊な全てが悪いわけでは無い。厳しくも大らかな世界だから、名も無き松坂大輔が誕生する。

行間を読みながら彼らの相撲を見るのも、悪くないと私は思う。
47歳の力士もいる。ちゃんこ番の40代もいる。
それもまた、もう一つの大相撲なのだ。

お知らせ

◆トークライブのお知らせ◆
4月7日18時より錦糸町丸井のすみだ産業会館でトークライブ「第6回幕内相撲の知ってるつもり⁉︎」を開催します。今回も週末に実施しますので、皆様奮ってご参加ください。テーマは「新弟子」。既にデビュー場所の成績と最終地位の関連性という衝撃のデータが解明されています。是非お越しください。

トークライブの予約サイトはこちら。

◆幕下相撲の知られざる世界感謝祭のお知らせ◆
4月21日15時30分より阿佐ヶ谷「ろまんしゃ」にて観戦会を開催します。

今回は相撲をお好きな方が集まり、ゆったりとお話しいただくイベントです。

基本的には交流を深めていただくことを第一に考えておりますが、余興として「私の心の一番コンテスト」の開催を予定しております。店内のオーディオを用いてインターネット上の映像を流しながら思いの丈を語っていただくことも可能ですので、是非ご用意ください。グランプリの方には景品も用意いたします。

なお、参加者が10人に満たない場合は場所も含めて変更の可能性がありますので、あらかじめご了承ください。あと、今回は15人限定でのイベントですので、予約が遅れると参加できない可能性が高いです。参加をご希望の際はお早めに予約サイトよりご予約ください。

・参加費 3000円
飲み放題(特定のお酒、ソフトドリンクのみ)食べ物は各自の持ち込みのみ。自由に持ち込んでいただけます。

・19:00からは通常営業になりますので、19時以降残る方はチャージ500円、あらためて飲み物のご注文をいただき飲み放題ではなくなります。

ご予約はこちら。

 

40代の高齢力士が10人余り居る事実。求められる、生き様としての相撲。” に対して1件のコメントがあります。

  1. shin2 より:

    春場所優勝の鶴竜の付け人に神山という力士がいる。鶴竜の所属する井筒部屋とは異なる一門の高砂部屋の力士だ。鶴竜の横に付いている「白メガネ」というと、わかる相撲ファンも多いだろう。
    井筒部屋が横綱含めて力士4人の小部屋なので、付け人は他の部屋から借りなければならないのだが、一門外の高砂部屋の神山が付いている理由は、彼が朝青龍の付け人経験もある「雲竜型マスター」だからだ。

    昨年稀勢の里の横綱昇進時の綱打ちも、彼が中心となって進行したと記憶している。現在の相撲協会で「雲竜型の綱の製作(綱打ち)」について、間違いなく最も詳しい人物だ。
    大相撲は基本的に文書としてのマニュアルのない世界だ。だから神山のような「雲竜型マスター」が口伝えで継承していく必要がある。
    (昨日の舞鶴でのアクシデントは、大相撲がマニュアルを軽視してきた弱点が露呈してしまったわけだが、これは修正する必要はあろう)
    神山は「まだ36歳」だが、しばらく引退できそうにない。

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