相撲部屋の稽古に予備知識ゼロの私が行ってみた part5 核心

~前回までのあらすじ~
相撲を見るに連れて、一度は稽古の風景を見ておきたい。

どんな日常から、技は生み出されるのか。

そんな疑問を解消すべく、夜勤明けの朝、謎の町:清澄白河に繰り出す私。住所録から場所を割り出し、挙動不審に成りながらも当初の目的地:北の湖部屋に到着。

しかし、土俵作りのために稽古はなし。

高田川部屋も、錣山部屋も期待はさせられるのだが、一歩手前で不可。こんなところでクジ運の悪さを露呈する。残るは大嶽部屋と、尾車部屋だが…

前回はこちら。


とりあえず、この界隈を様子見してみよう。

北の湖部屋を探していた時は、挙動不審に徘徊していたがもう今は堂々と徘徊する確信犯である。
ものの20分でこの変貌。慣れとは恐ろしいものである。

住所を片手に、大嶽部屋を目指す。

すると、目を疑う光景が。

1人の力士が、廻し姿で闊歩しているのだ。

チョンマゲ姿の成人男性が、ほぼ全裸で朝9時に路上を歩行していても不審者扱いされない。その事実だけでも異常事態であることは間違いない。

この力士がどこに行くのかは分からない。
戸惑いながらも前進する私。
そして、力士。
二人の距離が徐々に縮まる。

最初は認識している程度だったが目線を切らなくては不自然な距離になる。
ここで私は考えた。
この力士はどこの部屋の所属なのか。

もし、今から行こうとしている部屋の力士であればこのチャンスに見学のしきたりを聞いてしまえばいい。もし、その部屋が今日は稽古を公開していないなどの情報が有れば、手間も省ける。
いいことずくめなのだ。

清澄白河と相撲に少しずつ慣れてきた私は、ぼんやり眺めていた目線を力士の顔にロックし、軽く会釈する。

力士も会釈する。

「すみません。相撲部屋の稽古を観たいのですが
どこもドアが閉まっていて、なかなか観られないんです。
こういう時ってどうすればいいんですか?」

力士が答える。
「チャイムを鳴らせばいいんですよ。
普通、誰かの家に入る時はそうするじゃないですか。
黙って入ったら気分悪いですよね?」

そうか。
チャイムという手が有るのか。

確かにどこの部屋にも、チャイムは付いていた。
だが、扉が開いていない以上、入ってはいけないのでは?
という気にさせるのだ。

稽古見学の知識が無い身分としては、そのまま入ればいいのか、一声かければいいのか、それとも扉が閉まっている=見学禁止なのかこの辺りの判断が全く付かない。それ故にどうしてよいか分からずにドギマギしてしまったのである。

 

だが、そもそも予備知識が無い状態だと、そもそもチャイムを鳴らしていいかも分からない。

何せ稽古をしているのだ。チャイムなど鳴らしては稽古を阻害することにも繋がりかねない。
映画館では携帯電話が使用禁止なのと同じように、外的な要因が集中力を奪う、という仮説も成り立つ。

チャイム鳴らす=正論 ということに納得しつつもその理屈を最初から適用することは、様々なリスクを考えると出来かねる。力士側の理屈が私に適用できないことに対して二人の間でちょっとした溝が有ることを確かめながらも、礼を言う。

そして、私が尋ねる。

「稽古っていつでも観られるものなんですか?あと、今日ってどこの部屋も稽古観られないんですが時間的にはいつやってるものなんですか?」

力士は嫌な顔一つせず、私に答えてくれる。

「やってるときはいつでも観られますよ。あと、稽古やるのは大体7時くらいからで、早い部屋だと9時くらいには終わりますね」

なるほど。
稽古をやってるにしても、私の到着は遅かったのか。

「あ、自分の部屋は小さいんで、稽古はすぐに終わっちゃうんですよ。怪我人も居るし、数名でやって終わるんで。だから明日は同じ幕下力士の居るところに出稽古に行くんです。」

この言葉から、どうやらこの部屋の稽古は終わったらしい。
そして気になるのが、この力士が幕下力士だということ。

稽古見学のルールを尋ねながらも、気になるのは彼が一体誰か?ということ。

中アンコで、それほど上背は無い。
典型的な相撲顔。
誰だ?
あれほどよく見ている幕下なのに、名前が出てこない。

気にはなるが、とりあえず気になることを全て聞いておこう。

「稽古時間とか、チャイム鳴らすとか、稽古の公開とかこの辺りのことってどこの部屋も共通なんですかね?」

「部屋ごとにある程度差は有ると思いますけど、大体は同じですよ。気にされているのであれば、事前に電話で確認してみてくださいよ。結構うちの部屋、電話掛かってきてますから。」

電話!
その発想は無かった。

それこそ迷惑かもしれないではないか。いつ掛ければいいかも分からなないし、やっていいことと悪いことの判断がとにかく付かない。聞いてみなくては分からないことが、とにかく多い。

だが、とりあえず電話はOKということは分かった。この辺りが分かれば、あとは大丈夫である。なんやかんやで会話は10分近くに及び、長くこの力士の足を止めてしまった。そのことが申し訳なかったので、礼を言い、その場を立ち去ろうとしたが、例の疑問が解決していなかった。

そこで私は尋ねた。
「失礼ですが、お名前は?」

その力士は答えた。
「右肩上です。」

そうか!
確かに右肩上は大嶽部屋だった。

森麗と共に、当時の親方が改名することで話題になったことを覚えている。そして、何よりも幕下でも目にしている。所変われば分からないものである。

右肩上さんとの会話を終えると、最後の目的地、尾車部屋を探す。

だが、尾車部屋は扉が固く閉ざされている。窓が開いているが、力士の声は一切聞こえない。

結局、今日はどこの稽古も観られないということなのか。残念だが、右肩上さんの情報が有るので、次からは空振りということも少なくなるはずだ。最後に私は、特に理由も無かったのだがもう一度北の湖部屋に足を運んだ。

続く。

次回はこちら。

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