相撲部屋の稽古に一度だけ行ったが、不運にも見られなかった私が再度稽古に行ってみた part5 大砂嵐 前編

幕下同士の稽古が終わり、白い廻しを締めた力士が
土俵外から顔を覗かせる。
四股を踏み、摺り足をする。
一つ一つの所作が絵になる。
これが、関取なのだ。
出てきたのは北太樹と、鳰の湖。
先場所が幕下だったので、北播磨もこの中に混じる。
そしてその中に、幕下以下の廻しの力士が加わった。
短い髪をどうにか纏めて、マゲに似た何かを作っている。
筋骨隆々で、褐色の肌。
全身に薄い体毛を身にまとい、奥に引っ込んだ眼が
エキゾチックな印象を更に強める。
間違いない。
エジプト人初の力士、大砂嵐である。


4人で始める申し合い。
幕下以下の時は10名以上居たので、
参加する者と参加していない者とで大別されていたが、
4人となるとそうはいかない。
自分の順番は、すぐに回ってくる。
幕下以下よりも少ない人数で、ハイレベルな稽古をする。
強くならない訳が無いではないか。
関取と幕下以下では、稽古の頃から差が付いている。
この差を逆転するには、自らの弱さを分析し、
少ない時間で身の丈に合った相手と取り組むことで
克服するしかない。
結局、何処の世界も同じなのだ。
頭の良い者が生き残るように出来ているのである。
さて、そんな中、一人だけ来場所も幕下の大砂嵐である。
テレビで見ても、モノが違うことは分かっている。
大嶽部屋から出稽古で来ている彼は、
北の湖勢に通用するのだろうか?
私の焦点はその1点に絞られた。
ちなみに、あの時の右肩上も幕下との稽古に参加していた。
ということを付け加えておく。
大砂嵐が関取衆に対峙する。
相手は北播磨。
鋭い立ち合いから相手を押し込み、そのまま持っていくのが
身上の北播磨を相手に、立ち合いで勝る。
軽量の北播磨は立ち合いで失敗すると、かなり不利な戦いを
余儀なくされる。
自分の態勢のまま大砂嵐は北播磨を土俵外に押しやる。
続いて現れたのは鳰の湖。
身体検査の基準を下回り、一昔前では
シリコンを埋めなければ力士に成れなかった鳰の湖もまた
小さな体ではあるが、140キロ台にビルドアップした
押し相撲で幕内までし上がった力士である。
立ち合いは鳰の湖。
態勢が崩れる大砂嵐。
そのまま直線的に押し込む鳰の湖。
一気に土俵際。
徳俵に足を掛け踏みとどまると上手を掴み、
完全に鳰の湖が手詰まりになる。
推進力を失った鳰の湖は攻撃の一手を打とうとするが、
素早く態勢を入れ替えた大砂嵐は逆に鳰の湖を押し出す。
十両力士が敗れる中、北太樹が手を挙げる。
力士らしい力士たる体格の北太樹。
来場所は上位陣との対戦も予想される中で、
大砂嵐のこの相撲が通用するのか。
立ち合いは互角。
四つにさせると上位が相手でもしぶとい北太樹を相手に
いかに先手を取って攻め切るかが重要になるが、
素早く自分の形を作ると、あっという間に土俵外に押し出す。
強い。
強すぎるではないか。
この怪物を一体どうすればいいのか。
北太樹をも圧倒するのなら、琴欧洲でも連れてくるか?
私が思った以上に、大砂嵐は早く出世するかもしれない。
親方からニコニコ顔で「ブティ」と呼ばれる大砂嵐。
しかし、落とし穴は意外なところに待ち受けていた。
続く。

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