相撲部屋の稽古に一度だけ行ったが、不運にも見られなかった私が再度稽古に行ってみた part5 大砂嵐 後編

北の湖部屋の関取衆を相手に圧倒する、
大嶽部屋所属のエジプト人力士:大砂嵐。
彼はまだ、幕下である。
どこまで凄いのだ?
十両の北播磨や鳰の湖はまだしも、
横綱との対戦も予定されている北太樹まで倒してしまう。
関取達がだらしないのではない。
この男が凄いのである。
それを分かっているから、親方は3力士を責めない。
勝ちが負けを大きく上回る中、
異変が生じる。


立ち合いで先手を取られる。
態勢が大きく崩れているので、
そのまま土俵際まで持っていかれる。
こらえようとするが、ナチュラルパワーだけでは
修復不能なレベルなので、粘ろうと試みるが
そのまま土俵を割る。
勝ったかと思えば、あっさりと敗れる機会も多くなった。
すかさず親方の声が飛ぶ。
「ブティ!腰が高いんだよ!」
確かに先手を取られているのは、
腰が高いのが理由である。
腰高故に下から潜られる。
腰高故に身体を起こされる。
相手有利の態勢を作られ、力が全く出せない状況を作られる。
これではいくらアスリート的素養が高くても、
どうすることも出来ない。
スポーツエリート出身の外国人力士や
大型新人に在りがちな罠である。
今まではこの辺りが未熟であっても
相手の技術が未熟なことも有り
さほど問題にはなっていないが、
上の力士が相手となると、そうはいかない。
隙が有れば、隙に乗じて攻め込むのが関取の技である。
徐々に負けが込み始めてきた。
しかし何故、大砂嵐はこの弱点を持っているのか?
答えはその後明らかになる。
申し合いの後で、ぶつかり稽古が始まる。
鳰の湖を相手に、土俵の端から端まで押し続ける。
鳰の湖が受け止める。
普通はそのまま土俵際まで押し込むのだが、
大砂嵐は土俵の中央辺りで止まってしまう。
「オラ、どうした!もっと押せ!」
鳰の湖の声が飛ぶ。
一度止まった身体を再度動かすのは難しい。
力が入らない大砂嵐。
なかなか前に進まない中、どうにか土俵際まで持っていく。
「ホラ、あとひと押しだ、頑張れ!」
鳰の湖が激を飛ばす。
だが、土俵際で再度身体が止まっているので、
そこからのもうひと押しが難しい。
腰が高いので、力が入らない。
それでも何とか押すが、土俵を割らせてくれない。
崩れ落ちる大砂嵐。
要するに、基礎体力が足りないのだ。
そして、力士としての基本が出来ていないのだ。
考えてみると、その前から
立ち合い前に手を付かない、
稽古の基本動作と思われる動きが出来ない、
親方から話を聞く時に中腰に成らず、
腰に手を当てているなどの場面を目撃していた。
その時は単に北の湖部屋のしきたりを
知らないだけなのだと理解していたのだが、
知識として知らないだけではなく、
身体も動かせないところを見ると、
力士として未成熟なのだと言わざるを得ない。
そこには、力士としての技術面での課題だけではなく
技術を通じた精神面での成長も求められる。
しかし外国人であれば、精神面が未熟な状態でも
身体能力が図抜けているが為に早い出世を実現してしまう。
その結果どうなるか。
地位と名誉と金を手にして、自らを見失ってしまうのである。
出世と精神的成長が比例していれば
この部分は回避できるのだが、
なまじ能力が高いと、このような問題が発生してしまう。
大砂嵐は大丈夫なのだろうか。
不安に思うが、鳰の湖は彼に最後まで付き合う。
ひと押しが足りないと、励ましながら
更に押すように促す。
身体がついていかないと、横に投げ捨てて
もう一度イチからやり直させる。
限界まで追い込み、最後の一滴まで力を発揮させようとする。
これは、かわいがりなどではない。
かわいがりならば、励ましの言葉など投げ掛けない。
そして、感情的な行為の捌け口に成るだけである。
崩れ落ちた大砂嵐は、息も絶え絶えに
「最後」と促されながら何度もぶつかり稽古をこなす。
しかし、最後の一滴がまだ出し切れない。
親方からも、幕下以下の力士からも声が飛ぶ。
もう殆ど押せない。
身体は付いていかないが、やり遂げようとベストを尽くす。
こうした姿勢が、今の大砂嵐には必要なのだ。
自分を追い込むことで現状を知り、
楽をしないで基本に忠実な相撲を取ることを覚える。
頑張れ。もっと頑張れ。
素直に向き合い限界に挑む大砂嵐に、私は心底そう思った。
続く。

相撲部屋の稽古に一度だけ行ったが、不運にも見られなかった私が再度稽古に行ってみた part5 大砂嵐 後編” に対して1件のコメントがあります。

  1. げんもん より:

    文章からスケールの大きさが伝わってきます。
    このまま心身ともに成長してくれれば、すぐに現在の上位陣を脅かす面白い存在になってくれそうですね。
    阿覧みたいな感じにはならないでほしいです(><)

  2. Nihiljapk より:

    >げんもんさん
    コメントありがとうございます。
    総見の時もそうでしたが、大砂嵐は
    幕下レベルでは突出しています。
    恐らく十両も、あっさりと抜けることでしょう。
    ただ心配なのは、部屋に自分よりも強い力士が居ないこと。
    誰も教えてくれない。
    自分で気づかなくてはいけない環境の中で、
    彼は大丈夫なのか。
    人間性は恐らく大丈夫だと思います。
    あとは、工夫できるか。
    この点に尽きると感じました。

  3. 鳴門舟 より:

     鏡里、吉葉山の頃から相撲を見てきた、65才の男性です。
    文章が素晴らしいです。
    稽古場の様子、各力士の個性、手に取るようにわかりました。
     大鵬さんの葬儀で、和服を着た外国力士がいたので、誰だろうと思っていましたが、あれが大砂嵐だったのですね。
     今場所も、すでに二連勝、幕内まではなんなく上がって行きそう。
     把瑠都のような、存在になるのでしょうか。
    日本人力士にとっては、またやっかいな存在になりそうですね。
     大鵬さんもロシア人の血統を受け継いでいた力士でした。
     外国人には、日本人にはない、体の強さを感じます。

  4. Nihiljapk より:

    鳴門舟 さん
    コメントありがとうございます!
    恐縮でもありますが、本当に嬉しくも有ります。
    大砂嵐については、あの馬力を活かしつつ
    日本の相撲とその心を理解できれば
    素晴らしい力士になると思います。
    前への推進力は、規格外です。
    反面で、この手の相撲は阿覧や栃ノ心、
    臥牙丸あたりがよく取る形なので
    その辺りに停滞するのでは?
    という予想も有ります。
    はたして大嶽部屋が彼を育てられるのか。
    大竜にかかっています。

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