稀勢の里の宿願を粉砕した、白鵬の妥協無き横綱像とは?

稀勢の里が、残念ながら敗れた。
素晴らしい相撲だった。
白鵬の立ち合いの変化にも動じずに
右上手を取ると、その後すぐに左も入る。
迫力の有る攻めで土俵際まで詰め寄り、
白鵬も必死の抵抗を見せる。
土俵際で踏みとどまると、
その反発力を利して決死のすくい投げを決める。
ここで勝負は、決した。
これまでの稀勢の里であれば、
立ち合いの変化に面食らい、そのまま一方的な
白鵬ペースで終わっていたことだろう。
だが今場所の稀勢の里は、相手がよく見えている。
脇の甘さの改善も勿論そうだが、
慌てずに相手の選択肢を次から次へと潰す。
手詰まりになった相手は、稀勢の里に
有利な態勢を許して、あっさりと土俵を割る。
つまりは、横綱相撲なのである。


堂々たる風格を備えた稀勢の里は、
今場所で完成させたこの横綱相撲で
白鵬とさえ互角に亘り合った。
一言で言うと、感慨無量である。
誰が相手であろうとも、自分の相撲が取れる。
慌てず騒がず、盤石の相撲で相手を圧倒する。
このような姿を夢に描きながら、
一体誰が実現すると思っていただろうか。
稀勢の里を諦めない、とは言っていたがその真意は、
信じなければ実現できないと言う
私自身の信念から来るものだった。
実現しない、という思いが有るからこそ、
信じなければならない。
つまり、叶わないというのが本音だったのである。
これだけの相撲が取れたのだから、
これだけの進歩を見せたのだから、
宿願を叶えたい、叶えて欲しいと思うのは
当然のことだった。
だが、敗れた。
何故か。
それは、相手が白鵬だったからである。
日本中が稀勢の里に期待し、応援している。
言い替えると、日本中が自分に負けてほしいと願っている。
今日自分が敗れれば、相撲の新しい歴史が開ける。
それは、間違いなく希望の未来である。
相撲ファンはそのことを喜び、国技館も人で溢れ返る。
それを判っていながら、白鵬はあのような相撲を取った。
凄いことである。
再三引き合いに出しているが、
貴乃花の鬼の形相の時の武蔵丸は
今にして思えば窮屈そうに相撲を取っていた。
自分が勝ってはいけないのでは?
そんな風にさえ思っているように見えたのだ。
満身創痍の貴乃花が、土俵人生の全てを賭けて
日本中の期待を背負って自分に挑んでいる。
怯むのは当然のことである。
だが、白鵬はそんなことは無かった。
それどころか、彼は今出来るベストとも言える
闇を極めた相撲を取ってみせたのだ。
立ち合いでの一呼吸。
張り差し。
変化。
勝つためになら何でもする。
一点の迷いも無い、半端相撲である。
全ては目の前の敵に勝つために、
今出来るベストを尽くす。
そして、その脅威となったのが、
稀勢の里だったのだ。
これほどまでに勝ちにこだわる白鵬というのは
私には記憶に無い。
確かに最近の白鵬はモンゴル的な相撲を取るようにはなった。
だが、ここまでいい意味で汚い相撲を取るところは
今までにお目に掛かったことが無い。
大鵬がこの世を去り、日馬富士が横綱昇進を果たした昨今。
自身の根幹を成す存在を失った後で、
その根幹を変える大きな決断をしたのだから、
相当な覚悟であることは間違いない。
この大一番で変化をすれば、様々な批判をされる。
誰からも支持されなくても、自分は勝ちにこだわる。
日本中が自分を応援していなくても、
相撲界の発展を止めてでも、目の前の敵を叩き潰す。
それが、白鵬の考える横綱なのである。
このような力士に、一体誰が勝てるというのだろうか?
勝てるわけが無いのだ。
私達は、昨日大変残念な思いをしたが、
それは白鵬という稀代の横綱が相手だったからである。
稀勢の里には、宿題が残った。
この怪物を倒すという、難題が。
2か月でどのように変化するのか。
まずは、今日の琴奨菊戦である。

稀勢の里の宿願を粉砕した、白鵬の妥協無き横綱像とは?” に対して1件のコメントがあります。

  1. 894 より:

    「勝ちに行く」白鵬がそう明言した時、こういう相撲になるんじゃないかと思って心配してました、何十回もあの取り組みを見直し確かに左上手を取りに行こうと回り込んだ(変化)のが逆にキセノンを呼び込み不利な体勢(キセノン十分)になったように見えました。
    その後のあの体制逆転までの白鵬の形相は凄まじかった。あんな顔を真っ赤にした彼を見たのは初めてだったかもしれません。
    それほど勝ちたかった一番、終わった後の私の安堵(勝ったこと)と不安(変化を批判される)で入り混じった気持ちに襲われました。
    気になったのが終わったとキセノンが土俵溜まりでつぶやいてた言葉ですが私の想像(妄想)ですが(変化しやがって)だったのではなかったかと思うのです、その後のインタビューで「負けは負け」とは暗に(横綱が変化なんて)と思う気持ちから出たのではないかと・・・
    白鵬時代の横綱は13勝以上が必ず求められます(これは彼自身をも苦しめる今後になると思いますが)キセノンは果たして来場所勢いで14勝もしくは全勝してもその次の場所で結果が残せるか私は疑問です、早計な昇進は本人の為にもならないと思います日本全国相撲ファンの期待を背負っているからこそ、心技体の「心」を磨いてほしいです。
    最後ですが、とても真摯な言葉で語っていただいていつも楽しみに読ませていています。

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