「DOCUMENTARY of 吐合 幕下力士たちは傷つきながら、夢を見る」。後編

最近ブログトピックとして出していなかった、
幕下力士:吐合(はきあい)。
元学生横綱で角界入りするも大怪我を負い、番付外に落ちた。
その後、デビューから8年で掴んだ十両昇進のチャンス。
6連勝で迎えた、この一番を勝てばという取組。
彼は大激戦の末に、里山に敗れた。
努力をしている者が必ずしも報われる世界ではない。
だが、その中で傷を負いながらも、幕下力士は
一人前の力士になるために常に前を見ている。
私はそういう幕下力士のストイックな生き様に心打たれて、
今こうしてそのマインドを伝えるためにブログを続けている。
吐合は、恩人なのである。
そして私は先場所、吐合の勝ち越しが掛かった相撲を
国技館で観戦し、勝利した後で居ても立っても居られず、
遂に出待ちを試みた。
が、出待ちをしようとしたその場所は入口。


勢の巨躯を目の当たりにしたものの、
捜索は振り出しに。
さて、どうしたものか。
出口を探さねばならない。
こういう思考錯誤は嫌いではないが、
手掛かりが無さ過ぎて
どうしていいのか分からない。
となると、結局知識が無い身としては
足を使って情報を稼ぐしかない。
べスパが有れば、松田優作。
モッズコートを着れば、織田裕二。
いずれにしても、勇ましいBGMが脳内を駆け巡る。
工藤ちゃん気取りの私が荷物片手に
振り返ったその時である。
力士が居る。
細い目。
穏やかな表情。
上背はそれほど無い。
身体もそこまで大きくは無いが、
一般人と比べると山のような体型。
そして、何よりも一際白い肌。

!!
は、
は、
吐合だ!
驚き過ぎて、声が出ない。
今まで散々、一方的に話に出してきた、
そして一方的に私淑してきた恩人が、
私の目の前に居るのだ。
完全にスイッチが入ってしまった私は、
この後のことをあまりよく覚えていない。
興奮気味に、というか、興奮しかしていない状態で
「吐合さんですよね?」と尋ねた私は、
自らの活動について説明する。
すると、ある意味予想通りで、
ある意味恐縮する声が返ってきた。
「ブログ、知ってますよ。本当によく見ていますね。」
有り難いような、恥ずかしいような。
嬉しいのだけれども、自分が言ったことは的外れなのかもしれない。
そういうことを常に考えながらも、私は私の感じたことを
2年近く書き続けてきた。
そして、その結果がこの言葉なのである。
以前オフ会でお会いした方から、私が吐合さんと
お話しすることを躊躇っていると言った時に、
「話してみなければ分からないことが有る」と
言われたことが、実は下敷きとして有った。
私はここで、何かを彼から学びたい。
そして、今までの謎を解明したい。
色々とお話ししたのだが、大変申し訳ないのだが
覚えていることはあまり無い。
だが、一つだけ。
勝ち越しおめでとうございます、と告げた時のこと。
吐合さんは、一点の曇も無くこう言った。
「まぁ、あと一番有りますから。」
それほど大した言葉ではなく、
勝ち越しインタビューではよく聞く言葉である。
だが、感謝の言葉を述べ、吐合Tシャツを持っている
吐合さんとの記念撮影を終えた後で、
夢見心地になっている私の胸に去来するのは、
この言葉だった。
何故この言葉がこんなに残るのか?
他の言葉はそれほど覚えていないのに。
その後の十両の相撲すら殆ど覚えていない私は、
言葉の意味だけを考えていた。
幕下38枚目の吐合さんが、一点の曇も無く、
この言葉を言い放ったのである。
…分かった。
吐合さんはこの苦しい状況でも、
何の疑いも無く十両を目指しているのだ。
そこに満足が有れば、この言葉は出てこない。
31歳で、自分に対する疑問や心が折れて
惰性で相撲を取っている力士であれば
勝ち越した時点で緊張は抜け、
もっとはしゃいだ言葉になるはずだ。
事実、1年余り勝ち越しから遠ざかり、
三段目から上がった次の場所で、
吐合さんは勝ち越してもそこで一切
満足していないのである。
あともう一歩で十両。
給料100万円。
付き人が付く。
個室での生活が許される。
こうした生活の一歩手前で理不尽極まりない怪我を負い、
コンディションを崩して、それでも相撲を取り続けている。
その目的は、死に場所を見つけるためだったのではない。
生きる場所を求めてのことだったのである。
吐合さんにとって生きた証を残すこと。
それ即ち、十両への昇進だったのだ。
波乱万丈の、谷しか無い土俵人生の中で、
折れてもおかしくないし、
むしろ折れない方がおかしいくらいだ。
それでも、吐合さんは折れなかった。
折れそうになったことくらいあるだろう。
だが少なくとも今の彼は、前しか見ていない。
そんな生き様を集約したのが、先の言葉だったのである。
幕下力士として「夢」別名「呪い」に掛かった
諦めの悪い男は、夢としてではなく現実的な目標として
十両昇進に臨んでいる。
私が今まで幕下力士に対して抱いてきた思いは、
そう間違ってはいなかった。
やはり吐合さんは、人生するかしないかの局面で
することを選んだ、強い男だったのである。
私はそれが、なによりも嬉しかった。
会ってから分かったこと。
会った後で更に理解を深めたこと。
私はまた、吐合さんから学んだ。
もっと相撲を見よう。
幕下力士の生き様を見届けよう。
幕下相撲でしか、得られないものが有る。
客席で虚脱感に駆られた私は、
隣の学生に吐合さんの魅力を半泣きで語りながら
そう思った。
◆追記
7/20 17:00から両国でオフ会を開催します。
まだ余裕が有りますので、ご希望の方は
プロフィール欄のメールアドレスにご一報ください。

「DOCUMENTARY of 吐合 幕下力士たちは傷つきながら、夢を見る」。後編” に対して1件のコメントがあります。

  1. きしめん より:

    吐合頑張れ!成せば成る十両昇進!
    関取未経験の昭和51年生まれの翔傑、元幕内の昭和52年生まれの鳥羽の山も、まだまだ諦めていないと信じています。

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