稽古総見は、本場所とも巡業とも異なる魅力を持つイベントである。間近での臨場感が持つ魅力と、稽古で見せる新たな顔とは?
稽古総見が4月29日に両国国技館で開催された。
稽古総見とは、5月場所の前に横綱審議委員会の
諸先生方の前で幕下以上の力士が稽古を見せるというもので、
一年に一度両国国技館で開催される。
本場所ではなく場所前の稽古を公開する、ということが
この催しの大きな特徴で、本場所でも巡業でもない
本番前の稽古であることこそ我々の興味を大いに刺激する。
申し合いを行い、
ぶつかり稽古を行う。
相撲の世界では部屋で日常的に行われている光景ではあるが、
本来であれば目にする機会が無いものである。
今年は8000人もの相撲ファンが朝7時から開催される
この稽古を観るために駆け付けた。
朝7時に到着してマス6列目を確保できた昨年と比較すると
少し遅い時間でマスの最後尾に何とか入れたのだから、
その人気たるや凄いものであることがよく分かる。
相撲人気の回復が、この集客を産んだことは間違いない。
だが考えてみると、稽古総見は勝敗を競う訳でもない。
また花相撲としての緩い魅力が有る訳でもないのだ。
貴重な機会ではあるが、稽古は稽古に過ぎない。
そんな稽古総見ではあるが、私は相撲ファンであれば
このイベントに足を運ぶことをお勧めしたいと思っている。
それは何故か。
まず稽古総見は早い時間に並べば、普段は絶対に観られないような
素晴らしい席での観戦が可能だからである。
本場所ではマス席は、チケットの確保が非常に難しい。
平日であればまだしも、土日だとすると購入することさえも困難を極める。
だが、稽古総見ならば席を確保するための条件はただ一つ。
如何に早く並ぶか、ということである。
7時に開始するので、少々目を擦って始発で出れば良い。
単純な話なのだ。
そして、良い席で観られることをお勧めするのには理由が有る。
そう。
相撲は近ければ近いほど魅力が伝わる競技だからだ。
カメラワークの妙によって生よりも映像の方がその神髄に迫れる競技も存在する。
勿論状況の把握が難しいことも含めて魅力だと捉える考え方も有るが、
相撲に関しては生での観戦が向いていると断言できる。
100キロを超える巨体同士のハードな衝突は
遠くからでもその魅力が分かることは間違いないが、
衝突音や息遣い、力士の醸し出すオーラについては
近ければ近いほど新たな発見が有る。
それはテレビ観戦では分かり得ないことである。
だが、初めからマス席で観戦することは
費用などの問題も有って二の足を踏みがちである。
だからこそ、無料であるこの機会に一度体験しておけば
迷う要素を一つ潰すことが出来る。
そして稽古総見を進める理由は、もう一つ。
本場所でも花相撲でも観られない
力士の表情が観られることである。
本場所は、一生を懸けたシビアな戦いが観られる。
花相撲は、アスリートではない人間としての姿が観られる。
本場所がシビアだからこそ、花相撲で見せる
人間としての表情が魅力的なのだ。
稽古総見は稽古の場なので、本場所で見せる顔に近い。
本番前の前哨戦としての意味合いも有るし、
怪我をしてはいけないという事情も有る。
また力士ごとに課題が有り、この機会にどう向き合うか、
というポイントも存在する。
本番ではないからこそ見える風景が、稽古総見には有る。
次の稽古総見は、来年の4月である。
その時までに更に相撲人気が沸騰すれば、
更に早く足を運ばねばならないだろう。
しかし、眠い目を擦ってこそ観る価値のある催しであると
私は思うのである。
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