負けの物語から、勝ちの物語へ。終盤戦以降に展開される大河ドラマ:稀勢の里に括目せよ。
2013年5月場所からの1年は、土俵は稀勢の里を主語として回っていた。
日本人力士最後の希望として、遂に白鵬と双璧の相撲を取るところまで成長し、
永く停滞し続けた大相撲に新たな息吹をもたらすのではないかと誰もが期待した。
白鵬との激戦の数々を思えば、その期待に異論は有れど
全否定するようなものでなかったことは間違いない。
普段とは異なる顔を見せ、ダーティな取口すらも
一つの選択肢として稀勢の里を潰しに掛かる白鵬。
相撲界の顔として、清く正しく振る舞うことで
大変な時代を支え続けた白鵬が見せる裏の顔と真っ向勝負を挑み、
勝っても負けても言葉を超えた闘いを見せた稀勢の里。
だが、稀勢の里はその期待を裏切り続けた。
その原因は、白鵬が上回ったからではない。
自滅を重ねたからである。
治らない腰高。
脇甘。
心の弱さを露呈し、負けない相手に不覚を取る。
可能性を見せて期待が高まった時に、稀勢の里は必ず裏切る。
それを繰り返している間に、2人の力士が別の風を起こす。
鶴竜と、遠藤である。
稀勢の里の綱取りに際して、2場所連続優勝の基準は
20年前のそれをベースとするよう意思統一が為された。
だが、その基準で笑ったのは稀勢の里ではなく鶴竜だった。
稀勢の里がコンディションを落とす中、身体を増やし、
先手を取る相撲に磨きを掛けた鶴竜は、2場所連続で最高の結果を残し、
この基準だからこその昇進を勝ち取った。
そして稀勢の里に期待した人々の気持ちの捌け口は、
1年で上位総当たりの番付まで昇進した遠藤に向けられた。
大学卒業後に記録的なペースで番付を上げた遠藤に対して、
ファンの多くがその底知れぬ可能性の中に明るい未来を見た。
稀勢の里が見せる過酷な現実は、直視するには辛すぎたのである。
稀勢の里に対する期待は鶴竜が成し遂げてしまい、
稀勢の里に対する落胆は遠藤が受け皿となった。
どちらにしてもここで語られる主語は、稀勢の里である。
今、稀勢の里に対する表面的な期待感は、1年前と比較すると
比べ物にならないほど落ち着いたものになっている。
期待した分だけ裏切られるのだから、誰もが予防線を張り
傷つくことから逃れようとしている。
それは仕方が無いことである。
しかし、期待感は失われたのではない。
あくまでも期待を押し殺し、息を潜めて観ている。
勝てば静かに喜び、負ければ黙って目を背ける。
期待を抱かせるのも稀勢の里だが、
期待を裏切るのもまた、稀勢の里。
能力が有ることを知っているので成し遂げてほしいと思いながら
能力に見合った成績が挙げられないからこそ、もどかしい。
我々が観ているのは土俵上の稀勢の里だけではない。
稀勢の里と周囲の力士を巻き込んだ大河ドラマとしての
稀勢の里物語である。
勝っても負けても、そこに居るだけで物語になる存在。
それが稀勢の里なのだ。
この物語は、全く先が読めない。
勝つ物語に便乗して、感動にタダ乗りすることが
一つのトレンドとして存在している昨今だからこそ
負けの物語にここまで人が付いてくるということ自体、
非常に珍しいことだと思う。
だが、もう負けの物語にも限界が来ている。
鶴竜に先を越され、遠藤が猛追してきている。
更に彼らが結果を残してしまっては、
主人公は稀勢の里ではなくなってしまう。
ここから先の稀勢の里は、勝つ物語が必要なのだ。
今までは敗れながらも、遅いながらも
着実に前進してきたからこそ、主人公たり得た。
今、着実に前進すれば、その先には優勝という結果が待っている。
落せない序盤戦を碧山の1敗だけで凌ぎ、
負けられない中盤戦で苦手力士達を叩き落した。
ここまでは勝つ物語を着実に遂行しつつある。
勝負の終盤。
主人公から転落するのか、稀勢の里物語は続くのか。
もう、息を潜めるのは止めよう。
声を出し、手を叩き、筋書きの無い物語を見守ろうではないか。
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いままでも、プレッシャーがないときは良いこともありましたね。\\\
万が一、横綱にでもなれば、毎場所、毎場所、今の数十倍の物凄いプレッシャーを受け続けるわけですから、どう贔屓目にみても、稀勢の里が横綱としてやっていけるわけがありません。
だからいいんですよ、今のままの気楽で、たま~に強い稀勢の里で。
初めて投稿させて頂きます。毎回、鋭いご意見に一喜一憂しながら拝見させて頂いております。今つ場所の稀勢の里には怪我のこともあり、これまでのような期待は持たず観戦していました。しかしながら!良い意味で今場所は裏切ってくれています。そして…明日は一敗同士による取組!もう期待せずにはいられません。この、この展開を心の奥底で待っていました!九州場所のような心が震える相撲とまでは言いませんが真っ向勝負で白星を勝ち取ってほしいです。2013年5月場所から続いた物語にひとつ答えがでるような気がします。郷土力士稀勢の里ガンバレ♪
いつも興味深く拝見しています。
さすがに今度こそって思うのですが、稀勢の里の場合はまだ分からないですね。兎に角明日勝って欲しいです。
亀山巡査さんは期待は禁物と書いてますが、それでも期待してしまうのが稀勢の里の魅力ですかね。
いつも興味深く拝見しております。
萩原時代からのファンを自認しておりますが、
稀勢の里は本当に好きですね。
無様に負けた時は「お前なんかもう知らん!」と思うのですが、
それでも次の場所には応援しています(^_^;)
いくつも課題は見えるし、もろい力士ですが、
だからこそ何だか応援したくなる。
これも時代を作った力士なのかなと思っています。
明日、良い相撲を取ってほしいと思います。
朝青龍をにらんだ時のような、
感情をむき出しにした赤鬼の形相をもう一度見たいな。
なんだかとても素敵で詩的な記事ですね。誰もがもう稀勢の里には期待しない!と思っても稀勢の里が勝つと期待してしまう不思議な魅力をもつ力士ですよね。
なにがここまで彼に惹きつけられるのか考えると生真面目だからではないかと思えてきました。プレッシャーに対しても逃げることなく真っ向からぶつかる。相撲も変化や張り手などせず真っ向から受け止めて勝負する。たとえそれがどのような物であろうと頑なに真っ向から勝負を挑む。この糞真面目っぷりが何度も期待してしまう要因なのではないでしょうか。そしてそれがまた稀勢の里の最大で最高の魅力なのだと思います。
期待を一人で一身に背負い、何度も皆を裏切ってしまう歯がゆさと戦い、怪我と戦いながらやってきました。稀勢の里には是非優勝してもらいたい。その実力はあるのだから
こんばんは。
今場所の取組内容は万全とは言えないですが、思いのほか早く優勝争いの舞台に戻ってきましたね。
白鵬も今場所は盤石とは言い難いので大いにチャンスありです。
私は未だにキセを諦めてません。まだまだ大いに期待しています。
朝青龍、白鵬らモンゴル勢横綱に対し、日本中の理不尽なまでに過剰な期待を一身に背負い、懸命に土俵を務めてきた稀勢の里。
横綱、はさて置き、まずは何とか初優勝を遂げてもらいたい!
例えどんな結果であれ、キセの物語が完結するまでは、遠藤や大砂嵐、千代鳳ら若き世代に感情移入できません。。。
現時点で12日目に白鵬に勝つ姿は想像できるのですが、
そこから優勝となると…どうも思い描くことができません。
(稀勢の里が白鵬に勝った場合には、日馬富士に展開利があるように感じます)
また、今場所賜杯に手が届いたとして、
それでは翌場所となると…やはり大いなる懸念があると言わざるを得ません。
デーモン閣下が仰った「忘れた頃の稀勢の里」。
プレッシャーのかかる状況になればなるほど、
「持っていない」と感じさせる力士であります。
そういう意味では稀勢の里は今まで予想(期待ではありません)を裏切らない結果を残してきています。
今場所~翌場所が横綱と名大関の最後の分岐点だと思います。
予想を裏切ってくれるようならば、今後暫くの角界がより盛り上がると思います。
甲乙 丙太郎さん
コメントは差し控えさせていただきます。
マレーぐまさん
期待感が高まり、どうなることかと括目しましたが、
インサイドワークの面で上回られてしまいました。
明確な課題ですね。
歴史は動きませんでしたが、技術やフィジカルについては
引けは取らないことは証明できています。
あとは、今場所の宿題をどうするか。
これに尽きますね。
播磨灘さん
結局ダメでした。
しかし、ダメだった後こそが重要で
崩れなければ綱取りの目が出てきます。
ここでキレずにやれるか。
脆さを見せないか。
期待ですね。
キセファン さん
ダメなところを見せながら、
可能性も同時に見せる。
成長していないだけだったら諦めるだけですが、
諦められないところを見せてくるから
稀勢の里は魅力的なんですよね。
ダメさが完全に矯正されることは無いと思います。
しかし、前に進むことは出来ると思います。
やっぱり私は彼に期待してしまいます。
コスモスさん
生真面目さって、稀勢の里を語る上でのキーワードだと思います。
生真面目だからこそ、自分を追い込めるし
生真面目だからこそ、追い込みすぎて自滅する。
そういうところって誰にでもあって、
潰されていくところなんて非常に生々しい。
だから、応援してしまう。
そういう人が頂点を極めるところを観てみたいのですが
なかなか厳しい。
そういうものなのかもしれませんね。
麺部員さん
そうですね。
まだ稀勢の里の物語は終わっていません。
成し遂げるのか、玉砕するのか。
まだ可能性は残っています。
可能性がある限り、どんな結果であれ
見届けていこうと思います。