「幕下相撲の知られざる世界」の原点:吐合(はきあい)。彼が幕下から三段目になった今、変わらずに応援する理由とは?
あと数日で初場所が始まる。
昨今の大相撲人気の回復に伴い私の周囲でも
相撲に対する興味は高まっており、
逸ノ城や白鵬、日本人力士の動向など様々な質問を受ける。
だが、一つだけ異質な質問を定期的に受ける。
それも、かなりの頻度で。
「吐合さんって、最近どうなんですか?」
ご存知無い方のために説明すると
吐合(はきあい)とは元学生横綱の現役力士である。
たまたま観ていた10年前の全日本相撲選手権で
この珍名に衝撃を受け、学生横綱なのに
高校横綱の澤井豪太郎(現:豪栄道)に敗れることで
2度驚いたというのが出会いである。
数年後、たまたま観ていたBSの1時台の相撲で
「吐合」という名前を見つけ、
あの吐合がまだ相撲を取っていることから
吐合見たさに幕下を観ていたところ、この番付特有の
相撲が有ることに気付き、当ブログを立ち上げるに至った。
両膝を壊し、2年余りの休場を経て土俵に戻り、
全盛期の相撲を取れないまでも、元学生横綱が
力士にとっての一人前である十両を目指して
32歳の今も尚相撲を取り続ける。
当初は幕下と吐合が半々という構成のブログだったほど
吐合を見ること自体が幕下や相撲を観ることだった。
相撲の厳しさと少しの愉しさに触れたのは
吐合との出会いに依るところが大きかった。
だが、当初の質問に戻ると少し答えるのに困る事情が有る。
それは、今場所吐合は三段目に居るからだ。
幕下という地位は、一人前たる十両が見えるだけに
様々な半人前扱いを受け入れることになる。
大部屋での生活。
月給10万円。
関取の付き人。
とはいえ、幕下から十両に上れるのは
2か月に1度の本場所で僅か4名。
幕下に位置する力士は、合計で120名。
つまり、120名の中からトップ4に入らなければならない。
しかし、今の吐合が居るのは幕下よりも一つ下の三段目。
彼は夢を達成するために三段目の力士に勝った上に
120人抜きを果たさねばならない。
ハッキリ言って、非常に厳しい状況なのである。
そしてこの話をしたうえで、それでも吐合を応援する気持ちに
変わりが無いことを伝えると、概ね返ってくる返答は
言葉は違えど大体はこういうことだ。
・結果が出なくても、頑張っているから応援していることに共感する。
・過去の経緯が有るから、どういう姿になっても応援する姿勢に共感する。
半分は合っているのだが、私が変わらずに応援する理由は
吐合が単に頑張っているからではない。
そして、そういう吐合に対して同情しているからではない。
私が吐合をここまで応援する理由。
それは、彼がこうした状況でありながら
一点の曇りも無く十両を目指しているからだ。
2年近く前に吐合の勝ち越しが決まった後、
国技館の1階から出てくる吐合に話を聞いた時のこと。
正直なところ私は彼が死に場所を見つけるために、
踏ん切りをつけるために相撲を取り続けているのではないか?
という疑問を抱いていたのだが、実際は違った。
表情を変えずに「あと1番有りますから」と答えたのだ。
突き押し相撲なので、本来であれば140キロは欲しいところだが
20キロ足りない上に増えない事情が有る。
そういう理不尽を受け止めながら、自分に出来るベストな相撲を取る。
立ち合いでは絶対に逃げないし、
弱さゆえの引きは見せない。
今出来る相撲を取った上で、その日の勝敗が決まる。
そういう相撲を日々観ていたからこそ、
勝っても負けても力が入っていた自分に気付いたのである。
この姿勢と人間性を知った時に、私は如何なる結果であっても
吐合が現役である限りは見続けようと決めた。
何とかこの悲願を達成してほしいと切に願っている。
だが、そういう力士だけが残っているのが幕下なのである。
そういう力士を120人追い抜かなければ、
吐合の夢は成就しないのである。
だからこそ、吐合の相撲を観ていると
相手が上手く取ることも有る。
吐合が相手の相撲の特性故にミスをしてしまうことも有る。
誰もが明日を掴むためにベストを尽くしていることを
私は吐合と幕下を通じて知ったからこそ、
吐合の負けを「しょうがない」という一言で受け止める。
諦めなければ、夢は叶う。
そういう言葉が世に蔓延っている。
だが、もし誰もがこの言葉を信じていたらどうだろうか。
夢が2か月に4人しか叶わない世界では、
当然叶わずに去ることになる力士が多数存在する。
そういう一切合財を受け入れたうえで、
後に引けない者同士が相撲を取り続けているからこそ
この地位の相撲は面白いし、切ないのである。
だからこそ私は、この質問をする人に対しては
必ず同じことを言うのである。
吐合の相撲を観るために、13時から相撲を観てほしい。
そして、その相手にも注目して観てほしい。
そう。
恐らく、相撲の厳しさを少しの愉しさを垣間見ることになるから。
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