「相撲の反物で、浴衣を作ってみよう!」「…でもどうやって?」を行ってみた、やってみた。
当ブログを書くようになり、様々な方とお会いする機会に恵まれている。
そうした方のご厚意で有り難いことに物を頂くことが有るのだが、相撲関連のグッズでよく有るのが反物である。通常であれば後援会に入って実費を払ってから、もしくは会員特典として入手するというルートが有るのだが、今のところ後援会に入っていない上に相撲関連グッズはいやげもの以外それほど興味が無いので、頂いた反物は箪笥の肥やしにすらなっていなかった。
アルミラックに無造作に置かれた反物を見ながら、私は思った。
これは何とかならないものか?と。
ただ、私は「水曜どうでしょう」に於ける大泉洋の言葉を借りると「無類の不器用」である。これを使って何かをハンドメイドで作れるようなタイプではない。そんな私が冒険してこの素材を台無しにする訳にもいかないし、そんな発想すら無い。さぁどうしたものかと考えた時に思いついたのが、浴衣を作ればいいということだ。
こうした反物を使って力士自身が浴衣を作り、着用している。相撲中継でもよく観る光景ではないか。今まで何故その発想が無かったのか自分でも甚だ疑問なのだが、物に頓着しない性格上自分の中では筋が通っているので仕方が無い。とりあえず今日そのスイッチが入ったのだから、それで良い。
よし。
浴衣を作ろう!
ここで一つ疑問が湧く。
…浴衣って、どうやって作るんだ?
友人に聞いても答えらしい答えは返ってこない。私と同じように持て余しているという回答ばかりだ。どうやら悩んでいるのは私だけではないらしい。何気なく母にLINEで尋ねてみると、すぐに答えは返ってきた。
着物屋さんに頼めばいいのよ、と。
そうか。
そんなものなのか。
反物を持ち込んで「浴衣を作ってください」と言えばよいのだろうか。さすがに行きつけのコムサに生地を持ち込んで「おうワイや!これで服作ってくれんかのう?」などとやった試しが無いので、不安ではある。
これは久々の「行ってみた、やってみた」だ。稽古見学も相撲健康体操も、当日自由席も川崎フロンターレのゴール裏潜入も果たしてきた当ブログである。着物屋に反物を持ち込むなど造作も無いことだ。
そこで反物を片手に近所の着物屋である「そめの登鈴」に足を運んでみた。普段店の前は通るものの入ろうなどという発想すら無かったので、戸惑う私。カラカラと音を立てて引き戸を開けると、そこには和服の女性と一目で職人と分かる男性が居た。
開口一番私は尋ねる。半信半疑だが、とりあえず語気は強めにしてみた。
「すみません、こちらの反物で浴衣を作りたいのですが…」
すると、店の方は答える。
「はい、かしこまりました。」
…意外なほどスムーズだ。
このイエスノーに波乱が無いので、後は作ってもらうだけになってしまうではないか。嬉しいことではあるのだが、ブログ的には起伏が無いのでそれはそれで困る。
目的が果たせることについては大満足なのだが、この記事がボツになることに対して不安が募る私。それはそれで困るんだが、果たしてどうしたものか。そんな戸惑い方をしているとはいざ知らず、男性はメジャーと使い古された定規を持ち出してウエストや丈を測る。尺と寸で私のサイズを読み上げることに対してそうそう、そういうやつだよ!と思いながらも驚きの程度もそれほど無く、サイズ感的に私が丸裸になっただけでこのイベントは終了してしまった。
折り畳んであった反物が、くるくるとロールされていく。時代劇で見るあの光景だ。
「面白い柄ですね」
そりゃそうだ。相撲関連の反物で浴衣を作ったことが無いらしく、軽く相撲トークを挟むもこれもあっさりと終了。明らかに浴衣の作成に向かって事前準備がフィニッシュに向かっているのが素人目にも分かる。
さらさらっと伝票を書き上げる男性。
ぴっと切って私に手渡す。
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水通し \ 1300
お仕立て \18000
小計 \19300
消費税 \ 1544
合計 \20844
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うん、まぁこんなところか。
生地が無料だし、和服だし、
まぁ妥当なところじゃなかろうか。
全然出せるよ、うん、出せる。
…
…?
おや?
何だろう、この「水通し」ってのは。
居酒屋の「お通し」的なものなのか?テーブルチャージみたいに、端から代金としてカウントされるような趣旨のものなのだろうか?和服弱者をモロに出すようで気恥ずかしいところだが、ようやく来たこの企画の起伏である。とりあえず、聞いてみる。
すると、こんな答えが返ってきた。
「生地ってのはそのまま使うと、洗った後で縮んでしまうんです。折角完成した浴衣が縮むだけでなく、歪んでしまうんですね。そういうことを未然に防ぐために、浴衣として作る前に生地の状態で水に晒して縮めてしまうんですよ。これを『水通し』と呼ぶんです」
なるほど。
一言で表すと、浴衣を作る前にひと手間掛かるということだ。そういう手間であれば仕方が無い。縮めるにしても、素人が行う訳にもいかないらしい。そこには明確な理由が有るのだから、餅は餅屋に任せればいい。
水通しも含めて納得だ。さて、あとはいつ出来るのか。まぁ水通しが1日、縫って多く見積もっても2日くらい。糊代を考えてもせいぜい1週間というところか。見積書を仕舞いながら軽く尋ねてみると、驚くべき答えが返ってきた。
「んー、2か月は掛からないと思います。」
なぬっ!
そんなに時間が掛かるのか!
起伏が無いことが不満の特集だったので、遂に来た驚きの展開ではあるのだがそれは流石に時間が掛かり過ぎというものだ。一体どういうことなのか?ここはブログ的にも2015年の夏のファッションのためにも聞いておくべきだ。事情を聞いてみると、男性はこう答えた。
「今年は雨が多いので、水通しに時間が掛かるんです。あと、この季節は浴衣の仕立ての注文が多くて、その対応を先に行うんですね。なので先約を対応しつつ水通しと仕立てを行うと、大体それくらい掛かってしまうんですね。」
そして彼はこう付け加えた。
「浴衣の注文が多いのは、この季節だからなんです。ですから夏に合わせて浴衣を作るのであれば、その前にご注文いただく必要が有るんですよ」
そうか。そもそも着物屋さんに浴衣の仕立ての注文するということ自体、この季節は非常に多いのか。それは聞かねばさすがに分かるはずもない。だが2か月は掛からないとの回答ではあったが、この納期は私にとって大変好都合なものだった。そう。これから2か月であれば、9月場所に間に合うのである。
これはある意味有益な情報だったのではないだろうか。もし家で眠る反物をお持ちの方が居れば、「そめの登鈴」なら9月場所に間に合う。恐らくご近所の着物屋さんでもそれほど事情は変わらないのではないか。仮に近所でダメだったとしたら、登戸に足を運んでいただければ確実だ。
「アド街ック天国」ではないので「幕下ブログを見ました」と言ってもポカンとされるだけだろうが、これを機に反物で浴衣を作りたい方は、ご一考いただければと思う。
そめの登鈴のウェブサイトはこちら。
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