土俵際のダメ押しは、許されざる行為である。観客の怪我に対するリスク以上に、ダメ押しが有ってはならない理由を考える。

最近、相撲ブームによって観客が増えている反面で、相撲内容が過去に無い荒れ方を見せている。
変化。
カチ上げ。
張り手を通り越した掌底。
いわゆる相撲の形を期待して、こうした内容で決まった時の心境は複雑だ。まず相撲としての面白味が喪失されてしまうし、期待していた攻防も無く、あっさりと勝負が決してしまう。早い話が、相撲を楽しみに来たのに、相撲を取ってくれない。これに対するモヤモヤなのである。
だからこそ、期待に添う形でトリッキーな相撲を取ったり、荒々しい張り手を見せたり、横綱大関に対して大胆な相撲を取るのであれば逆にこれを支持することすら有る。だからこそ、荒れた相撲が悪だという訳でなく、使うシチュエーションの問題なのではないかと思う。
そして、私は個人的にこうした取組内容についてはそれほど問題視していない。何故なら、そこには大きなリスクを伴うからだ。フルスイングで張り手に行けば脇はがら空きになるし、変化については動きに対応しさえすれば勝ちは目の前だ。こうした取組を限られた力士しか行わないのには理由が有る。つまり、リスクに見合った結果を得にくいのである。
例えば琴奨菊などは、変化に対応できない立合であることは間違いない。それほど彼は変化に対するリスクを顧みずに立合いで相手を持って行くことに命を賭けている。だからこそ、私は琴奨菊が変化で敗れても何も思わない。むしろ、大関を相手に批判を覚悟で変化に行った力士に対して、その度胸を褒めたい気持ちになるほどだ。
だが、一つだけ許してはいけないことが有る。
そう。
ダメ押しだ。
ダメ押しは土俵際で勝負がほぼ決した状況で、攻め手が追い打ちを掛けるようにもうひと押しすることである。私が知る限りここ30年でそれほど問題化していないトピックだったのだが、ダメ押しが起きる都度最近では議論の的になっている。考えてみると張り手もカチ上げも張り手も私が子供の頃はそれなりに見ていた記憶が有るのだが、ダメ押しに関しては覚えていない。ひょっとしたら覚えていないだけで過去にも有ったのかもしれない。しかし覚えていないということは優先順位の極めて低い事柄だったのではないかと思う。
そう考えると、ダメ押しは最近頻発しているのだ。
そして、非常に印象的な場面で出ている。
ダメ押しはあくまでも勝負が決する時に出てしまうものだ。だからこそ、勝ちを掴むための戦略として使われる変化などとは全く色合いが異なる。そもそもダメ押しは技ではない。勢い余って出てしまうものなのである。だからこそ出す側にリスクは無く、受ける側にはリスクしか無い。
そしてダメ押しについてよく言われるのが、観客に対するリスクである。
無防備に近い力士が全力の押しを受けるのだから、当然大男がとんでもない速度で土俵から落下してくる。溜席は座布団が敷かれているので、胡坐か正座かという姿勢になる。つまり突発的な事態に対処しづらいわけだ。これから先ダメ押しがこのような頻度で行われたならば、遅かれ早かれ観客の誰かが大きな怪我をすることになる。これは避けられないことだろう。溜席にどのような決まり事が有るかは知らないが、ファールボールを避けられなかった観客が訴訟で勝利し、多額の損害賠償を受け取る時代なのだ。場合によっては再発防止のために溜席という文化が無くなるかもしれないのである。
とはいえ、これはあくまでも表向きの理由で、実は私が言いたいのはそういうことではない。つまり、ダメ押しをする力士に対して信頼を損ないかねない、ということである。
ダメ押しというのは、基本的に番付が上の力士が下の力士に対して行われる。逆は有り得ない。何故ならそんなことをしたらその後とんでもない目に遭わされるからだ。だからこそ、そのようなシチュエーションを私は見たことが無い。
ダメ押ししてしまっている力士にも言い分が有ると思うし、つい出てしまったということも有ると思う。全てが悪意を持って行われたものだとは言わないし、そう断言してしまっては一方的になってしまう。そういう物言いを私は好まない。
ただ、今ダメ押しをしている力士はある程度限定的だ。そして、その力士は下位の頃にダメ押しなどしてはいなかった。何が言いたいか。彼らはダメ押しをしない相撲も取れるのである。そして彼らはダメ押しをすることによって、結果的に下位の力士に対してパワーハラスメントを働いているわけである。
だからこそ、私はダメ押しはあくまでも「出てしまっている」と信じたいのだが、こうした状況証拠を考えると「意図的に出している」という見方も出来てしまう訳だ。せっかく相撲に良い風が吹いているところで、力士と観客の信頼関係を壊しかねない疑いを掛けてしまうことは良くないと私は思う。
このままの流れが続くと、場合によってはそのリスク故に「ダメ押しした力士にを1日出場停止にしよう」などという抑制策が出てしまう可能性が有る。だが、規制というのは文化の粋を著しく損なうものである。誰もが文化を理解しそれを体現しているからこそ、文化は文化たり得るのだと私は思う。
そもそもダメ押しをしないこともまた、古来より続く文化である。
相撲の粋を守るためにも、早急な改善を期待したいと思う。
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