【個性派列伝】 Vol.2 隆の山 4

新入幕で、スピードとパワーに優れる
規格外のチェコ人、隆の山。
しかし実際はキャリアが10年近くあり、
長く低迷していた過去がある。
彼の潜在能力を考えると、もっと早く花開いても
良かったのにと思うが、そう上手くいかない。
彼の場合は、有り余る身体能力故に
アイデンティティの否定に至らず、
結局その身体能力に溺れて
その範囲でしか力を発揮できなかったのである。


隆の山の場合、十両で取っている相撲は
彼が幕下で取っていたそれとそう変わらない。
そう。
例の規格外相撲である。
土俵際でのあり得ない逆転。
躍動する痩身。
決して彼は何かを克服したわけではない。
八百長問題などで力士達が処分を受け、
その影響でめぐってきたチャンスを
どういうわけかモノにしてしまったというわけだ。
正直言って、驚いたのは幕下相撲ファン、
即ち私である。
彼の相撲は、幕下だからこそ面白い。
その規格外は、相撲を覚える過程だからこそ映える。
だから本来であれば、隆の山は幕下の壁を経て
自らのアイデンティティを否定して、
新たな相撲の形を身に付けるべきだったのである。
非凡な才能はこうした機会を奪い、
本来であれば才能は知られること無く
マニアだけの記憶に残る存在でしかなかった。
観ていて楽しい存在ではある。
幕下相撲の権化として、幕内をかき回してほしいとも思う。
だが、同時に私は彼が今のまま
活躍するのもまた違うと考える。
幕下とは足りない者が上がって、
足りない者同士が競い合い、
時には傷をなめ合うという世界である。
翻って幕内とは、こうしたステージを突破した
選ばれし者が完成度の中で凌ぎを削る世界である。
そう。
隆の山はまだ、足りない者なのである。
少なくとも、今のままでは。
応援したい思いもある。
幕下を代表して、その異常性を世に大きく広めてほしい。
しかし彼の活躍は、彼の成長を止めることにもなる。
脇が甘いまま、それを「懐が深い」という言葉で
中和してしまったかつての貴ノ浪のように。

【個性派列伝】 Vol.2 隆の山 4” に対して1件のコメントがあります。

  1. 鯉太郎 より:

    隆の山は太れないからああいう相撲を取るしかないのでは?
    相撲部屋の環境や本人のコメントなどから考えても、
    わざと減量してるとは思えないんですが…
    軽量力士が普通の、型通りの相撲を取ったって勝っていけるわけないでしょう。
    それこそ幕下すら難しいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)