本場所と巡業。160日を超える取組が、大相撲の未来を壊す。

夏巡業で、気になるニュースが報じられていた。
序盤に休場する力士が続出したというのである。
人気力士の休場に、巡業を観戦する方からは落胆の声が上がった。本場所の人気が高まる中で、相対的に手軽にチケットが入手出来るのが巡業の魅力でもあるので、普段なかなか本場所には駆けつけられないファンの期待も高まる。だが蓋を開けてみると、目当ての力士が参加しないのでは残念なことだ。
気持ちは分かる。
私が東京場所を観戦できるのは平日に休日が有るからであって、土日休みの方だとチケット入手は困難を極める。インターネットでのチケット入手を先日初めて行ったが、10時からウェブサイトを更新し続けて、運良く繋がらなければ断念せざるを得ない。
今、相撲ファンの多くがこのようにして相撲を現地で観戦している。ファンも苦労の末に足を運んでいるのである。では、そうした期待に応えられない力士に果たして問題があるのだろうか。私にはそうはとても思えない。
まず、本場所の負荷が非常に激しいことがその理由だ。
本場所は年に6回、15日ずつ開催される。年間に90日間、真剣勝負の場が設けられているのである。言い換えると幕内であれば、平均体重150キロを超える力士達と年間に90日はぶつかり合う羽目になるのである。
ぶつかるだけではない。素早い動きに対応するために、あの巨体でストップアンドゴーを繰り返す。ふくらはぎやアキレス腱に掛かる負荷は相当なものだ。そして、攻められた際に自らの体重と相手力士の体重が膝に全て掛けられることになる。
そういうことを、90日行うわけだ。
場所中に怪我をする力士が後を絶たないわけである。
付け加えると、数年前の出来事から無気力相撲に対する目が厳しくなってきている。信頼は一見回復したようにも見えるが、回復したとは言い難い。未だに相撲と八百長はセットで語られることも有る。力士達はそういう使命感を背負って土俵に立っている。だから、相撲が激しくなる。当然怪我も増える。
そして、巡業の本数が増え続けている実情が有る。
2016年は、年間で70日を超える巡業が予定されている。つまり、場所中とのトータルで160日以上取組が有ることになる。
本場所が有り、それが終わると毎日のように巡業が予定されている。巡業が無い日でも移動日に当てられる事もあれば、公式の場での仕事が予定されている事も有る。例えば地域の方との交流イベントもあれば、後援会の方との会が予定されている事も有る。土俵に立つだけが力士の仕事ではない。稽古する時間を工面することさえ難しいのが、今の大相撲なのである。
大相撲はファンが居るからこそ成立している。多くの方がお金を出して相撲を見たいと考えているからこそ、力士達は食べられている。彼らの期待に応えるために本場所と巡業という機会が設けられているのであれば全力で応えるのがプロである。
だが、巡業に休場する力士が増えている。
そして、本場所中に怪我をする力士が後を絶たない。
白鵬を脅かす力士が出てこないのは、白鵬がとてつもない力士であることも理由だが、脅かす前に壊れてしまうこともまた、要因の一つなのである。
常幸龍。
千代大龍。
遠藤。
大砂嵐。
そして、照ノ富士。
次代を担う力士達は、番付を上るときは良かった。だが、怪我を境に成長曲線が思い描いていたのとは異なるものになっている。次世代が台頭しないことにより、白鵬や日馬富士、更には稀勢の里や琴奨菊など横綱大関に掛かる負荷が増している。そのこともまた、彼らが巡業で休場せざるを得ない、もしくは強行出場に追い込まれる一因となっている。
よく語られるのは、公傷制度の復活だ。だが、公傷制度というのは怪我をした後の対処策である。つまり怪我を予防するための対策ではないのだ。
怪我をする根本原因こそ、今着手すべき問題だ。取組が年間160日以上組まれているのは、果たして適正なのだろうか。そしてその取組数を、怪我せずにこなすようなことは可能なのだろうか。私にはそうは思えない。次世代力士が皆怪我でパフォーマンスを落とす実情が、今ここにあるからだ。
八角理事長に問いたい。
巡業で休場者が続出し、本場所でも若手力士の怪我が絶えない今この状況は果たして「土俵の充実」と言えるのだろうか。言えないというのであれば、この問題にいかに着手すべきなのだろうか。「土俵の充実」を掲げながら、3月の就任から半年が経過しながら具体策は見えない。手をこまねいているうちに、今日もどこかで力士は壊れている。
白鵬が絶対的な横綱として君臨し、稀勢の里がモンゴル人力士に挑む構図が有るからこそ、今の大相撲は魅力的なのだ。彼らが今後いなくなった時に、果たして大相撲は新たなドラマを産み出せるのだろうか。大いに不安である。
もうこれは、先送りに出来ることではない。未来を担う力士を潰す前に着手せねばならないことは明白だ。大相撲の未来は、今に懸かっていると言っても過言ではないのである。
勇気ある決断を、期待したい。
◆告知:40歳以下の相撲ファンが千秋楽に大相撲をテレビ観戦する会◆
9月25日に千秋楽を大人数でワイワイテレビ観戦する会をやってみようと思います。参加を希望される方はmakushitasumo@gmail.comまでご連絡下さい。
ただし、これまでとは少し趣向を変えて、「40歳以下」という縛りを設けてみたいと思います。同じくらいの世代で一緒に相撲を観る機会が無い、という声に応えるのか目的です。あと、千秋楽は盛り上がるのにチケットが入手しづらく、一人であたふたすることが多いことも理由の一つです。
東京近郊で、16時間から開催予定です。詳細は後程連絡します。普段よりもこぢんまりとした感じになると思われますので、お気軽にお声かけください。なお、人数次第で中止の可能性も有りますので、予めご了承ください。
それでは、お待ちしております。
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