力士をいかに守るか。公傷制度を今一度、考える。前編

安美錦が、十両の下位で出場している。
豊ノ島は、十両の下位で休場している。
ベテラン力士が怪我を抱えながら、現役引退の危機に瀕している。彼らは力が落ちたのではない。数ヶ月前までは上位の力士を脅かしていたのだから。豊ノ島は優勝を懸けた琴奨菊を相手に一世一代の取組を見せたことが記憶に新しい。
彼らは相撲界の宝だ。だが、一度の大怪我によってその宝が失われようとしている。ではなぜこのようなことになるのか。それは、大相撲の世界では一度の休場が大きく番付を落とす結果になるからだ。
例えば先場所休場した安美錦は5月場所では前頭3枚目だったが、1勝したのちにアキレス腱を痛めて名古屋場所では前頭13枚目に、今場所は十両10枚目と後がない状態で迎えることになった。言い換えると、現行の制度では前頭の上位に位置する力士でも、全治4ヶ月の大怪我を負うことは許されないということである。
野球やサッカーをご覧の方はお分かりかもしれないが、このような怪我はそこそこの頻度で発生する。シーズン中だと「今季絶望」と表現されることになることも多い。だが、彼らはその後リハビリを経て戻ってくる。怪我をする前と同じように相撲が取れる次元にまで回復することも多い。
メジャーリーグでは、怪我をする可能性も込みで契約が取り交わされる。長期契約を結ぶので仮に1年2年怪我の影響で出場できなくても身分は保証され、時間を掛けてリハビリを行う。急ピッチで復帰しようと、無理をすることは許されない。それは、チームにとってその選手が宝だからだ。ドジャースの前田健太の降板が早いのは、このような事情も作用している。
怪我を治しながら出場させるのが、大相撲。
怪我を完全に治した上で復帰後も無理せず使うのが、メジャーリーグ。
どちらが良いかは意見が別れるところだ。
長く活躍が期待できる代わりに、目当ての選手が見られないリスクも有る。スター選手が居ないのは興醒めだ。話は別だが前の会社の同僚がニューヨークに旅行に行き、ヤンキースタジアムに行ったらジーターもアレックスロドリゲスもリベラも軒並み休みだった上に、先発が無名の新人で大変がっかりした、ということが有った。
果たしてこれは、サービスとして良いのだろうか。そういう方向に舵を切れば、別の問題が浮上することもお分かりいただけたと思う。
話を大相撲に戻すと、大相撲では現在「怪我は治しながら出場する」という思想がある。そのため、休場力士の番付が大きく落ちる現行の制度が継続されている。
力士としては、番付を落としたくない。そして、出場することに一つの責任が伴っている。こうした背景から、大きな怪我を負いながらも彼らの多くはどのような決断をするか。
つまり、強行出場するわけだ。
手負いの力士が相撲を取れば、当然なかなか良い相撲は取れない。たまに会心の相撲を取ると「全盛期の相撲」と評されることになる。そのため「全盛期」は力士の場合、一度の怪我で失われることも多い。
特に、最近多いのは膝の怪我だ。膝を壊すことは非常に恐ろしい。何故ならば、相撲が取れないこともないからだ。
もし動かないのであれば、番付は落ちるが休むという選択しかない。その時は苦しいかもしれないが、時間を掛けることで相撲が戻ることも有る。
だが膝を痛めると、一般的な傾向として攻めることは出来るのである。攻めた相撲が冴え渡れば、そのまま相手を倒すことにも繋がる。例えば膝を痛めた妙義龍はかつてと比べると成績が安定しないが、上位に上がってくると相変わらず危険な相撲を取る。
問題は、相手の攻めを残せないことだ。
膝を痛めて強行出場している力士は、攻めを受けられると苦しい。残せば逆転のチャンスが生まれる。受けさせるように攻めれば、勝機はあるからだ。攻めを凌ぐか、先に攻める。攻勢に出られた時、その力士の技量が問われることになるが、技術だけではどうにもならないところもある。だから、膝を壊すことは非常に怖いのである。
だがこのような状況が続く中、必ず話題に出るのが公傷制度のことだ。先日のアンケート結果では、大相撲に公傷制度が有ったことをご存知無い方も増えていることが分かった。それほどこの制度は過去のものになりつつある。
かつては怪我をしても、公傷が適用されれば1場所休んでも大きく番付を落とすことは無かった。豊ノ島や安美錦も、当時の制度が適用されれば先場所の地位くらいで留められていたことだと思う。
だが、公傷制度が今無いのには事情がある。
つまり、公傷を申請する力士が激増したのである。
当ブログをご覧の方はご存知かもしれないが、休場の数自体は増えていない。悲惨な怪我を目の当たりにするので印象に強いかもしれないが、実はそのような事実が有る。最後の数年間だけ、休場者数が途方も無い水準にまで達してしまったのである。
頭が痛いのは相撲協会だ。
そして、公傷制度は廃止される運びとなった。
当時の公傷制度を復活させれば、力士は守られる。だが、当時のように休場者が激増する可能性があるのも事実だ。現在の仕組みでは力士が守れない。だが、当時のままでは同じことの繰り返しになるがことだろう。
そこで以前も話に出たことだが、もう一度公傷制度について考えてみたいと思う。
そもそも公傷制度は必要なのか。
必要ならば、どのような仕組みにすれば良いか。
力士を守り、大相撲を守るための、具体的にどのようにしていけば良いのか。皆様のご意見を伺いたい。コメント欄もしくはプロフィール欄のアドレスに送付頂きたい。なお、特に興味深い意見についてはブログ内で紹介するので、非公開を希望される方はその旨伝えて頂きたい。
期限:9月22日
++++++++++++++
問1:公傷制度は必要か。またそれは何故か。
問2:問1で必要と答えた方は、どのような制度にすべきと考えているか。
(具体的な案があればそれも添えて)
問3:怪我を抑止し、発生後も復帰できるようにするためには、どうすれば良いか。
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なお明日の記事では参考までに、恐らく私が現時点で一番現実的だと考えている意見を紹介してみたいと思う。
気軽に連絡いただければ、幸いである。
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力士をいかに守るか。公傷制度を今一度、考える。前編” に対して6件のコメントがあります。

  1. 魚類 より:

    問1:必要だと考えます。
    単純なファンの視点として、いつも見れる時間帯、あるいは大相撲ダイジェストで安美錦、大砂嵐、豊ノ島(まだ復帰していませんが…)らを見れないのは寂しいです。
    また過密日程で、治すこともままならず壊れていく若手が続出していることも公傷復活を希望する一因です。
    問2:協会内に診療所を設け(あるいは協会指定の病院)、骨折・靭帯損傷等、公傷が適用される基準を設けてはどうでしょうか。
    休場に伴って番付が下がっても幕内なら幕尻まで、あるいは十両最下位までなど、番付の下げ幅の限度を設けるのも一案かと思います。
    問3:ウエイトトレーニングの制限、あるいは専門的なトレーナーの指導のもとにおけるウエイトトレーニングの実践。
    硬く怪我しやすい体にさせない、という発想です。

  2. ごんべえ より:

    1.公傷制度の要否
    必要
    2.具体的な制度設計
    (公傷の認定)
    相撲協会診療所作成の診断書がある場合を原則とする。
    それ以外の診断書の場合、協会診療所のセカンドオピニオンにより公傷相当の意見が出た場合に限り、公傷認定とする。
    (番付昇降の取扱い)
    途中休場(または途中出場)の場合は、通常どおりの番付昇降とする。
    公傷により全休した場合、翌場所の番付はそのままの地位で据え置く。
    ただし、公傷により場所を全休した場合、その場所の力士報奨金は支給しない。
    また、関取以上の給与については、全休場所の属する月とその翌月は支給しない。
    給与と給金が欲しければ、復帰するしかない。
    3.ケガの防止または復帰に向けた取り組み
    野放図な平均体重増への対応を、部屋単位ではなく協会全体で行う。

  3. mizuha0407 より:

    問1:公傷制度は必要か。またそれは何故か。
    必要と考える。
    スポーツ、特に体をぶつけ合う純粋な格闘技である相撲では怪我を無くすことはできない。
    しかし、その怪我によって選手人生を揺るがせるような要因は1つでも削るべきだと考えるから。
    問2:問1で必要と答えた方は、どのような制度にすべきと考えているか。
    (具体的な案があればそれも添えて)
    休場後、1度目の番付編成までは従来通り番付を落とす。
    そこから先は公傷者リストの様なものを作成し、番付外に格付けし、復帰後同格の番付へと戻す。
    公傷が増えた要因は、比較的軽度の故障を負った力士への適用が乱発した物と思われるため、長期休場についてのみ考慮すべきと考える。
    問3:怪我を抑止し、発生後も復帰できるようにするためには、どうすれば良いか。
    打撃技など、相手の体を傷つける技の少ない相撲では、怪我は抑止できる点が他の格闘技に比べると少ない印象がある。
    怪我からの復帰に関しては、協会側がリハビリなどのノウハウを集めて一手に引き受ける形でもいいのではないだろうか?
    公傷が増えると出場している力士にしわ寄せがいく状況があった過去もありますので、難しいところではありますので、過去の物をそのまま復活。というのはやらない方が良いかと思います。

  4. Noriori より:

    1.公傷制度は必要
    2.公傷制度が廃止された理由に「必要以上に公傷を申請するケースが多い」というものでした。ただ、必要な治療を行う時間が必要なケースは多いはず。このあたりのさじ加減が難しいのですが、日本相撲協会は付属機関として「相撲診療所」という医療機関を持ち、専属の医師がいますのでこの診療所を活用するというのが一つの手だと思います。①公傷を申請する際は原則として相撲診断所の診断書を使う②相撲診療所の診断書でない場合は、その診断書の内容が適切かを診療所の医師が確認する-プロの目を担保にすることで適切な運用ができるのではないかと思います。
    また、今から30年以上前のことですが、当時の三保ヶ関部屋でウィルス性肝炎が流行したことがありました。集団生活で感染症が起こると感染拡大につながりやすいものですが、相撲という競技の特性として体を密着させることも多く、感染症対策というのは非常に重要であるはず。しかしながら感染症対策というのは制度として確立されていません。学校だとインフルエンザに罹患した場合、学校保健安全法に基づき解熱から二日間は出席停止の措置が取られますが、欠席にはならない。相撲でも感染症罹患による休場の場合は負けの扱いになる休場ではなく、その休んだ期間はそのまま除外(関取が4日間休んだ場合はその場所は11日間だったことにして勝越・負越の点数を計算)といった制度を作るべきだと思います。
    また現在大相撲の巡業はそのほとんどがバス移動となっています。このバス移動の最中に事故があったということは今まで幸いにしてないようですが、防ぎようのないもらい事故に遭う可能性というのは巡業の数が増えるほど、また移動距離が延びるほど当然出宇が高まります。仮にもらい事故で骨折して休場を余儀なくされた場合、現状では何の救済策もありません。巡業や海外公演など、協会の行事に協会が手配した乗り物に乗っていて事故に遭ってしまった場合の救済策は必要だと思います。

  5. TCE00072060 より:

    >問1:公傷制度は必要か。またそれは何故か。
    必要ではないと考えている。
    安美錦や豊ノ島のことを考えれば、正直あってほしいと思ってしまう。
    公傷制度を復活させてしまえば、おのずと以前の状態に戻ってしまい
    大きなケガをしてしまった力士には申し訳ないとは思うが
    小さなケガでも休む、結果休場力士が増える。でも番付は変わらない。
    番付の入れ替えが行われない、停滞の温床とも言える。
    そうならないためにも、公傷制度の復活は必要ではないと考える。
    >問3:怪我を抑止し、発生後も復帰できるようにするためには、どうすれば良いか。
    時代の移り変わりと共に、力士の大型化が止まらないことが
    ケガだけでなく、健康面でも心配になるときがある。
    大型化、重量があったほうが攻守ともども力が上がるとはいえ
    その結果、大きなケガに繋がってしまっては力士生命、ひいては
    その後の人生にも影響を与えてしまうようなことは良いとは言えない。
    相撲協会として、力士の大型化に歯止めをかけて、力士の平均体重を
    減らすことを考えていってほしいと思う。

  6. だるま より:

    問1 公傷制度は必要である。
    大相撲にケガは避けられないものです。ケガが治らないうちに、出場しさらにケガを悪化させる悪循環は力士の寿命を短くするからです。
    問2 まず相撲協会の認定をうけた医師が診断する。
    その上で認められた場合に公傷とする。
    番付上、大関の場合どんなに休んでも関脇以下には落ちない。復帰の場所で10勝すれば大関復帰出来る。
    幕内、十両は全休した場合7枚下がるなど明確な基準を設けて、下がるスピードを今の半分程度にする。
    問3 これは難しいかもしれませんが、土俵の下に美観を損なわないように衝撃を和らげるクッションを敷くなど、少しでもケガをしないような工夫をするべきではないでしょうか。
    土俵を柔らかくすれば、さらにケガは減るはずです。まあこれは無理でしょうが。

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