里山の告白。理想の相撲と、潜る相撲の狭間で。

里山が十両の中位で苦戦している。
西十両9枚目での3勝9敗は、来場所十両の地位を保証するのに十分なものではない。残り3日間次第では4年間守り続けた関取の座を失いかねない。4場所連続の負け越しが決まった今、里山の目標は十両残留である。
あの独特の潜る相撲について、人づてに聞いたところによるとこんな会話が為されていたそうだ。
「里山先輩、なんで潜れるんですかね?」
「自分でも分からないんだよ。」
幕内に上がると取らせてもらえる、里山独特の潜る相撲。ただ、状況が変わりつつある。十両でも中々潜らせてもらえなくなってきているのだ。
潜ろうと試みて、跳ね返される。小さな体が吹き飛ばされて、土俵際まで追いやられる。不利な体勢を立て直せないまま、攻勢を許して勝負が決する。このような取組を観る機会が増えたように思う。
何故今里山は潜れなくなってしまったのか。相手力士の慣れなのか、里山自身の衰えなのか。それは知る由も無い。ただ、事実として里山はかつてのように自分の相撲が取れなくなってきている。
相手の胸ではなく、腹の下に頭を付けるスタイルは、ひょっとしたら里山以前にも存在していたのかもしれない。ただ、これをメインの戦略として関取で行っているのは里山が初めてだ。少なくとも私の記憶の中では。
小さな里山が大銀杏を乱しながら、潜って勝利する姿は十両の名物だ。ただ里山は以前、私にこう語った。
「本当は阿武咲みたいな、前に出る相撲を取りたいんです」
軽く衝撃を受ける私に、里山はこう続けた。
「今の相撲は、本当は怒られる相撲だと思います。でも、この相撲で勝てるし、お客さんが喜んでくれる。取りたい相撲とは違います。でも自分は、今の相撲を取るんです。」
勝てる相撲と取りたい相撲は違う。
そんなことが有るのかと驚かされた。
ここまで人気を獲得した今も取りたい相撲の話をするということは、当然そこにジレンマが有るということだ。割り切れたとしたら、このような話を私などにすることは無いのだから。「吐合の心の番付の話、良かったです」と私の記事の話を熱心にしてくれたのだから、恐らくこれは里山の偽らざる本音なのだろう。
自分の限界に傷つきながら、新たな相撲を模索する。その末に見つけたのが、あの潜る相撲だ。小さな里山が潜って勝利する度に大歓声を受ける。
それでも、里山は割り切れていないのだ。
理想とする相撲を夢見ながら、現実の相撲を取っている。それは好きな音楽が有りながら世で認められた曲が有るので、割り切って演奏しているミュージシャンのようなものではないか。
知る由も無かった、関取のジレンマ。だが、そうして割り切った相撲を取りながらも、遂にその相撲さえも一つの壁に当たっている。今里山は、一体何を思うのだろうか。
潜る相撲と心中することになるのは間違いない。それが里山の生きる道だったのだから。潜る相撲が通用しなくなった時、恐らく里山は髷を切ることになるだろう。
力士としての終わりを意識した時、つい感傷的な気分になる。当然居る力士が居ない土俵を想うと、別のことを考えてしまう自分が居る。ただ、究極のマンネリとしての相撲が存在し続ける限り、誰かが土俵を去ろうとも2ヶ月に1度の本場所はやって来る。里山が危機に瀕していても、それは変わらないのである。
好きな力士と好きな相撲が存在する今に感謝しながら、ひょっとしたら最後かもしれない相撲を見届けよう。里山の今にざわつく心を抑えながら、私はそう考えた。
そして最後に、里山のエピソードを紹介したい。
当ブログでターニングポイントになった、例の一番。12年初場所の吐合里山の一番だ。
この一番を勝った方が、十両昇進。学生横綱でデビューしながら前相撲まで経験し、8年目でようやく最大のチャンスを掴んだ吐合。そして、幕内を経験しながら4年間幕下でくすぶり続け、3連敗から3連勝で持ち直した里山。痺れる一番だ。
互いにラストチャンスかもしれない状況の中で、引き寄せられるように相見えた二人。全勝が吐合と、当時北の湖部屋に所属していた佐久間山だったからこそ実現した取組でもある。大相撲人気が回復した今このような取組が実現したら、一体どれほどの騒ぎになるだろうか。
そんな一番で、里山は潜らなかった。
そう。
里山は、吐合と撃ち合ったのである。
1分30秒を超える大熱戦。
勝ったのは里山だった。
もしかするとこれから先、里山が潜らずに撃ち合う相撲を取ることが有るかもしれない。その時は全てを覚悟している一番であることを、我々は知る必要が有る。
頑張れ、里山。
私に今言えるのは、それだけである。
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