稀勢の里にとって逸ノ城との一番が、絶対に負けられぬ訳ではない理由。
昨日は、心臓の休養日になった。
単独トップからの数日は、生きた心地がしなかった。誰と対戦しても、負けるシナリオがちらつく。
初優勝が懸かれば普通はもっとポジティブとネガティブが行き交うものだが、これだけネガティブだけが闊歩するのは恐らく稀勢の里が最初で最後ではないかと思う。普通は初優勝のチャンスを掴む機会が中々巡ってこないか、それとも何度目かのチャンスでモノにするからだ。
積み重ねてきた準優勝は、実に12回。それだけ優秀な成績を収めてきたとも言えるが、大相撲の世界に於いて準優勝というのは評価されるものではない。むしろ優勝するチャンスに恵まれながら逃してしまったという受け止め方をされることが多い。稀勢の里は、実に12回も優勝の機会を逃してしまった力士である。
豪栄道戦は不戦勝。逸ノ城と貴ノ岩が3敗目となった今、準優勝は確定した。
これは13回目のトライだ。もし優勝すれば「3度目の正直」ならぬ「13度目の正直」として新たな諺が生まれるかもしれない。一方で優勝を逃せば「2度あることは13度ある」として、これもまた新たな諺になるかもしれない。
よくぞここまで諦めずに、13度もチャンスを掴んだものだと思う。本当に頭が下がる。普通は諦めると思う。これだけデジャブのように弱さを見せ続けここ一番を落とし続ければ自分を見失うことだろう。自分が業務上、チャンスを掴んでは大ミスを繰り返したとしたら、恐らく立ち直れないと思う。それでも前を向いて、確かに成長し、毎場所のように優勝を争うところまで来た。
本当に足りないのは優勝であり、その結果としての横綱昇進。それだけなのだ。
だが、それだけなのだが「だけ」ではない。そのことの重さは、近年稀勢の里を観てきた方であれば誰もが分かることだと思う。足りないのは優勝。だが、その優勝が本当に遠い。大一番を落とす瞬間を目の当たりにすると「だけ」の中にどれだけ絶望的な壁が有るかが分かる。
さて、残りはあと2日だ。千秋楽に白鵬戦を控え、今日は逸ノ城と対戦する。
こういう時にやらかすのが稀勢の里だ。それほど苦にしていない相手に、信じられない相撲で敗れる。一体何度その光景を目の当たりにしてきたことか。
やらかすことに怯えながら、2度あることは13度あるのではないかと考えながら、緊張の瞬間を迎えることになる。果たして私は大丈夫なのかと思う。絶対に負けられない闘いで敗れてきた稀勢の里は、逸ノ城戦で真価が問われるのだ。
…
少し、待ってほしい。
果たしてこの闘いは「絶対に負けられない闘い」なのだろうか。
もう一度状況を振り返ろう。
13日目が終わって、稀勢の里は1敗。白鵬は2敗だ。差は1つ。両者ともに勝てば、稀勢の里が1つリードした状態で千秋楽を迎える。
そして、稀勢の里がやらかしてしまったと仮定する。差は無くなる。千秋楽は、勝った方が優勝だ。
お気づきだろうか。そう。どちらにしても白鵬に勝つことが優勝のための条件であることに変わりないのである。
1つリードしていれば、千秋楽で2回チャンスが与えられる。並んでいれば、一発勝負だ。チャンスの回数は1回増える。
だが、ビハインドの場面から白鵬が本割で勝てばそういう空気が漂うことになる。稀勢の里は今回もダメなのか、となれば白鵬が断然有利になる。一度負けた後、短期間しか猶予の残されていない優勝決定戦で勝ちをもぎ取ることは、今の稀勢の里には難しいだろう。逆に、この状況で立て直して白鵬に勝利すれば、それは快挙と言える。
もし、稀勢の里が白鵬に勝つとすれば、それは1回目の対戦だ。つまりそれは、逸ノ城に勝っても負けても得られる機会だということである。
2つ星の差が有る状態で明日を迎えたとしたら、逸ノ城戦は極めて重要な意味を持つ。その対戦の結果如何で白鵬との対戦を待たずに優勝が決まるとしたら、是が非でも勝ちたい。絶対に負けられないと言える。それほど白鵬の存在は、優勝を目前に控えた時に大きいのである。
平幕の、前頭13枚目の逸ノ城に敗れれば場所の流れは変わるという観点も有る。だが、ご存知無い方も多いかもしれないが、実は稀勢の里は歴代大関の中では最も連敗が少ない部類の力士である。
本割から優勝決定戦ではなく、1日の猶予が与えられるシチュエーション。そして、平幕を相手にやらかすというシチュエーションは今までも経験してきている。だから、稀勢の里は連敗せずに立て直せる。未経験の優勝決定戦という状況とは何もかもが違うのである。
千秋楽の一大決戦を前に、勿論勝ちたい。ただ、負けたら全てが終わる状況では全く無い。追い込まれる必要は無いのだ。
取りこぼしてはいけない序盤。
徐々に相手が強くなる中盤。
いずれも負けられぬ日々が続いていた。序盤と中盤でもう一つ星を落としていれば、もう一つも負けられない状況が続くことになっていた。
恐らく明日の逸ノ城戦が、15日の中で一番重要度が低い一戦だ。乱暴な言い方をすると、負けられる状況ではあるのだ。その状況を産み出したのは、良くない相撲も有る中でここまで12の勝ち星を積み重ねた稀勢の里である。
稀勢の里にとって14日目は、苦しんだ日々を思えばそこまで苦しくない一日だ。
ただ、個人的にはそれでも勝って良い流れを作るところは見たい。不幸な結果になったとしても、何も終わってはいない。そう。全ては白鵬戦次第なのだから。
仏の顔も13度にならぬことを願いたい。
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同じようなことをわたしも考えていました。
どちらにしろ、白鵬には勝たなければならない。
14日目に負けて、開き直って、そのことで白鵬戦に本来の力が発揮しやすくなるのであればむしろ、逸ノ城戦の負けは「追い風」。
14日目に勝って、またいつものようにガチガチになるのであれば、逸ノ城戦の勝ちは「逆風」。
nihiljapkさんの言われる「(稀勢の里には)追い風が追い風にならない」所以です。
「稀勢の里は連敗が少ない」というnihiljapkのご指摘で改めて感じましたが、彼は、負けることによってなんらかの心の処理ができる力士なのでしょうか?
それを「開き直り」という言葉で言っていいのか、別の言葉を用意しなければいけないのかわかりませんが、そういう「不可思議さ」も、また稀勢の里の魅力に思えるのはわたしだけでしょうか。
ちょうど1年前に(虎舞竜のロードじゃないよ)琴奨菊が優勝した。
この場所の十四日目、白鵬は稀勢の里と対戦して、立合い一歩も踏み込まずに負けた。
千秋楽の日馬富士戦も全く気合いが入ってない相撲で、場所後横審から注意を受けたと記憶している。
もし千秋楽、優勝を懸けて稀勢の里と対戦すれば、国技館の大半が稀勢の里を応援する状態となる。
白鵬は自分が完全にアウェイ状態になることを避けているのではないか。
十四日目の貴ノ岩戦も、いつもの白鵬ではなかった。
最新の日刊スポーツのネット版によると、みんな大好きw横審委員長の守屋氏は、
>>「14勝した方がいいが、もうよろしいのではないか。(白鵬戦は)重要視しないでいいのでは」と私見を述べた。同委員長はトップと2差の12勝だった先場所後の会合後、稀勢の里の綱とりに否定的だったが「横綱2人に大関1人が途中休場する中で、これだけ頑張ったことを評価したい」と話した。
また二所ノ関審判部長も、
>>日本相撲協会で昇進問題を預かる二所ノ関審判部長(元大関若嶋津)は大相撲初場所14日目の21日、13勝1敗で初優勝した大関稀勢の里に関し、横綱昇進を諮る臨時理事会の招集を八角理事長(元横綱北勝海)に要請する意向を示唆した。
事実上稀勢の里の横綱昇進が決まった。白鵬、千秋楽横綱の意地を見せてほしい。
今でもその時の解釈は間違っていないと思いますが、稀勢の里は諸々の試練を乗り越えてしまいました。追い風を逆風にしてしまう稀勢の里はもういないのかもしれません。ただ、そういう稀勢の里がまだ居るのだとしたら、今回の記事のような考え方は引き続きありだとは思うのです。
私も仕事中に観て、全ての感情が止まりました。
だって稀勢の里ですもの。