【吐合速報】史上最大の挑戦。後篇

元学生横綱にして大怪我を経て番付外に陥落し、
幕下で悪戦苦闘する、吐合(はきあい)。
デビューから8年に亘る雌伏の時を経て、
幕下11枚目で4連勝と、遂に昇進のチャンスを掴む。
だが、吐合の目の前に現れたのは
幕下筆頭で全勝の19歳の若武者、千代鳳。
ここ2カ月はほぼ負け無しという
彼の相撲史の中で最大の壁が
立ちはだかったのであった。
土俵の中央で仕切る二人。
幕下の取組は塩も力水も無いので、
すぐに相撲が始まる。


腰を下ろし、手を付く姿勢に入る二人。
だが、互いが互いの様子を伺い、手を付かない。
少し焦れた千代鳳が先に片手を付いて、
相手の出方を待つ。
ワンテンポ遅れて吐合が片手を付く。
そしてその直後にもう片方の拳で地面を付き、
千代鳳に向かって突進する。
が、ほぼ同じタイミングで千代鳳も立ち会う。
立ち会いの間合いは互角。
吐合はここで絶対に吹き飛ばされてはならない。
何故なら、千代鳳に面した大半の幕下力士は
立ち合いで劣勢になってしまうからである。
諸手で千代鳳の肩を受け止める吐合。
千代鳳の突き押しは、不発に終わる。
少々下がったものの、第一関門はクリアした。
だが、まだもう一つの課題をクリアせねばならない。
そう。
千代鳳には四つに取らせてはならないのである。
体格の面で大きく吐合を上回る千代鳳は、
廻しを取れば圧倒的に優位な立場となる。
当然千代鳳は廻しを取ることを目指して攻勢に出る。
ロックアップの態勢で踏みとどまった千代鳳は
片手で吐合の頭を強引に抑えて引きに掛かる。
しかし、立ち合いの時点で態勢が崩れていないので
この引きにも動じない。
更に千代鳳は廻しを巡って手を尽くす。
前みつを取ろうと左手を刺す。
が、即座に反応した吐合は千代鳳の
左手首をガッチリと掴む。
手を振り解こうと前進する千代鳳。
左手首のホールドが外れる。
前進しつつ右前みつを刺しに掛かったその時、
吐合が左前みつを刺したのだ。
下に潜った吐合が、左に態勢を変える。
そして、ほぼ同時に投げを打つ!
身体が前を見てしまっている千代鳳は
成す術なく土俵に落ちる。
吐合、完勝。
十両力士に匹敵する実力者を相手に、
何もさせず完全攻略した吐合。
圧巻だった。
体格で劣り、またパワーでも劣る吐合は
相手の出方を予め予測して
長所を無力化する戦略で臨まなくてはならない。
一つのミスが相手の持ち味を解放することに
繋がるため、全ての動作を完璧に遂行することが
求められる。
そして、この日の吐合は正にそれを成し遂げたのである。
全治2年に及ぶ大怪我を経て、
学生横綱だった当初の相撲を取れなくなった吐合が
思考錯誤の末に辿りついた新たな形は、
難易度の極めて高いカテナチオスタイルだった。
こうした背景を思いながら彼の相撲を見ると、
本当に頭が下がる。
これで5勝目。
あと2勝である。
最大の壁は、越えた。
あとは目の前の敵に対して、
この素晴らしいスタイルを見せつければ、
自ずと結果は付いてくる。
15日目を終えたその時。
幸せな結末を夢見ずには居られない。

【吐合速報】史上最大の挑戦。後篇” に対して5件のコメントがあります。

  1. 銀之助 より:

    はじめまして。ヤフージャパンの大相撲コーナーによく貴ブログが表示されるので、興味を持って眺めているうちに、貴ブログがとても好きになった者です。以後よろしくお願いいたします。
    私は中学生の頃、毎月のように大相撲の雑誌を買っていました。そして、NHKのテレビ中継に飽き足らず、できることなら幕下以下の取組も見たいと思っていたような者でしたので、管理人様が幕下相撲の虜になられたお気持ち、よくわかります。
    ちなみに私は、どちらも惜しいところまで行きながらついに十両に上がれなかった、出羽ノ海部屋の志州山という力士と、地元出身の高見花という力士が好きでした。
    なお私は、現在は相撲観戦よりも落語鑑賞が好きなのですが、平凡な真打よりも荒削りの二つ目のほうが見応えがあると思っています。むかしから、未完成を楽しむ傾向があるのだと思います。貴ブログに共感する所以です。

  2. mongoal より:

    はじめまして。いつも拝見しています。
    結果を他で知りたくなかったので、後編の更新まで待ちました。
    今11枚目ですか。今話題の佐久間山より上位ですし、もし全勝で幕下優勝するようなら十両昇進もあるかも知れませんね。そしたらメジャーになってしまい少し残念かも。
    現在全勝は佐久間山、吐合含め4人。この二人は同部屋というのも若干有利かな。決定戦で同門対決もあるかも知れませんね。

  3. 清国好き より:

    もし吐合が十両昇進しても明月院みたいに凡庸な四股名になってほしくありません。
    「吐きの湖」
    これだとインパクトは吐合以上だけどそうはならないでしょうね。
    明月院もせめて千代明月だったらと思います。

  4. Nihiljapk より:

    >清国好きさん
    コメントありがとうございます!
    彼は「吐合」だからこそ、吐合なのだと思います。
    名前を変えるということも一つのモチベーション
    なのかもしれませんが、
    吐合が吐合であるためにも、私は
    吐合と名乗り続けてほしいと思います。

  5. Nihiljapk より:

    >銀之助さん
    コメントありがとうございます!
    幕下の相撲は未完成だからこそ、
    頭打ちだからこそ
    幕内の定規では計り知れない楽しみが有ります。
    そこには、人間臭い背景が読みとれます。
    土俵の上で起きていることも魅力的なのですが、
    見る側の想像で背景を補完することで
    更に魅力的なものになるからこそ、
    私は幕下が好きです。
    いつもご覧いただき、有難うございます。
    私も落語を聴いてみようと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)