映画「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」公開は、世間に対する挑戦だ。
最近、LINEのオープンチャット大相撲ルームという、SNSで相撲ファンが集うサイトを運営している関係で若い相撲ファンの方とお話しする機会が多い。
彼らは大相撲の知識を得ることにとても貪欲で、若い方のためのルームを作ったにもかかわらず年齢層が上の方が比較的多い環境を好み、情報を求めているのがとても心強い。
一方で気がかりなこともある。
相撲ファンを開示するのに抵抗があるというのだ。
今までに開示した結果、偏見の眼差しで見られたことがあるということであれば、ある程度仕方がない部分もあると思う。それは一種の防衛本能のようなものだから。しかし、彼らの多くはそもそも開示すらしたことが無いという。つまり、彼らの中では世間は大相撲に対して偏見があり、マイナスイメージを抱かれることを恐れているのである。
これは、由々しき問題である。
私は先日40歳になった、いわゆる松坂世代の一員だ。そのため、世代的には若貴ブームを通過しているので親世代はおろか私たち自身が大相撲の洗礼を受けている。故に相撲を観ること自体自然なことである。
果たしていつから、大相撲はそのような立場になってしまったのだろう。
太った力士がチョンマゲを結い、フンドシを締めて小さな円の中で闘っている。確かにヘンテコな世界だ。だがそのヘンテコを、今までは親世代・祖父母世代と共に幼少の頃から通過することで力士に対するリスペクトという感性を養ってきた。リスペクトは多少のヘンテコを「そういうものだ」ということで消化させる作用がある。
今は、違う。
そう。
ヘンテコで止まっているのである。
この状況を打開するために、大相撲をお茶の間に届けねばならない。
しかも、リスペクトに繋がる形で。
そんな中、私に一つの知らせが入った。
大相撲を題材としたドキュメンタリー映画が10月30日から公開されるというのだ。
タイトルは『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』。
取材対象は境川部屋と、髙田川部屋であり、この二つの部屋に半年もの間密着している。察しのいいファンの方ならばわかるかと思うが、彼らは大相撲の世界の中でも最もストイックな部類の部屋である。私が驚いたのは、彼らが半年もの密着取材を受け入れたということだ。
元大関豪栄道の武隈親方が優勝した時、取材が殺到する中で彼はほぼメディアに出演することは無かった。良し悪しは有ると思う。だが、そういう昔気質な考え方で力士を育成する部屋なのである。このようなスタンスの相撲部屋が許可したということは、そこには何かがある。
彼らはこの取材を通してこう語る。
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想像を絶する朝稽古、驚きの日常生活、親方・仲間たちとの固い絆、そして、本場所での熱き闘いの姿を追いかける中で、相撲の魅力を歴史、文化、競技、様々な角度から紐解いていく。勝ち続けなければいけない、強くなくてはいけない。
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これは、只の映画ではない。
世間に対する挑戦状である。
大相撲ファンが見て面白いのは間違いない。力士が持つストイックさ、気高さ、凄みを目の当たりにすることになるのだから。だが、ファンであればそれは知っている。ドキュメンタリーを見ることは、本場所で見ているその裏側を知ることになる。確かにそこにも意味はある。
だが、この時代に大相撲をこの形で伝えたいとしたら目的はただ一つ。
相撲を普段見ていない日本人の目を覚まそうとしているのである。
何も言わずに予告編を見てほしい。
これを見て、相撲に対する偏見を語る奴が居るだろうか?
自らの飛び込む世界を「毎日が交通事故」と語る力士がそこに居て、「お相撲さんは武士ですから」と語る元力士が居る。これだけのことをしているのに、世間は大相撲に対する偏見で溢れている。寂しいことではないか。
聞くところによると、大相撲はヤフーニュースの中で野球・サッカーに次ぐほどトップニュースに登場する機会の多いスポーツである。それほど関心はあるが、昨今のニュースを見る限りでは良いものばかりではないことが残念だ。だが、見放されている訳ではない。気にはなる存在なのだ。
監督はテレビの演出家として活躍し、本作が映画初監督作品となる坂田栄治という方だ。彼自身がドキュメンタリーを通じて大相撲が魅力的だと感じなければ、この映像は撮れないしこの言葉を引き出すことも出来なかっただろう。良き作り手に恵まれたと私は思う。
「サムライを継ぐ者たち」というのは危険なタイトルだが、力士の生き様を見ればこれも大げさではないことが伝わるだろう。先の言葉を振り返ってもそうなのだが、大相撲を客観的に表現すると強い言葉の助けを借りなければならないのである。
大相撲ファンの方にも勿論観てほしい。だが、私は個人的には大相撲を少し馬鹿にしている方にこそ観てほしい。馬鹿にしているということは興味がある訳で、彼らこそ今回のターゲットに相応しい。それだけの熱量と説得力のあるものなのだから。