服部桜を笑うAbemaTVと山根千佳が、猛省せねばならない理由。

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Abema TVでの服部桜を巡る一件

今場所から大相撲中継を開始したAbemaTV。

新しいファン層に訴えられる新しい放送だから、その内容に期待したいという想いを抱き、また個人的にも大相撲中継の歴史について、AbemaTimesからの依頼で寄稿した経緯もあるので、その内容には期待していた。

その内容に賛否両論あり、中には殆どが「否」にあたる試みがあることも事実ではあるが、一つずつ修正すれば良いことだと私は認識しており、それほど問題とは思っていなかった。

だが、昨日彼らの放送が致命的な問題を抱えていることを知った。

AbemaTVは朝から大相撲中継を行うことが一つの売りとなっている。ここで彼らは放送開始直後に出てきた服部桜を笑い者にしてしまったのである。

一昨年の敗退行為。
そして、2017年は皆勤で全敗。

彼のキャリアは不名誉なところが有るし、むしろ彼を有名にしているのは不名誉さ故であることを私は知っている。服部桜は不名誉さで語られる大相撲の歴史の中でも異質な存在だということは前もって抑えておきたい。

そして、私は決して「頑張っている力士を馬鹿にするな」という感情論でAbemaTVを叩きたいわけではない。全ての力士は等しく頑張っている。力士にとって頑張ることは、息を吸うほど当たり前のことだ。それを盾に擁護するのは服部桜に極めて失礼なことだと思う。

服部桜と相撲へのリスペクトが無いということ。

では何が問題かを考えたい。一言で表すと、リスペクトが決定的に欠如しているのである。

服部桜は大相撲の中で圧倒的に弱い存在だ。そうでなければこの成績にはならない。偶発的な要素が勝敗を左右することも多い競技なので、2年近く続けていれば、よほど実力が離れていなければもう少し勝つことが出来るのは間違いない。

そういう力士が毎日のように絶望的な実力差を見せつけられながら、自分に絶望しながらも、それでも現役力士で在り続け、土俵に上がり続け、そして絶望的な実力差を見せつけられて今日も敗れていく。

この挑戦を、私は重いと思う。
彼ほど相撲に賭けている力士は他に居るのだろうかとも思う。

トークライブでも話していることだが、このような力士は過去にも居た。だが、彼らは入門後すぐに引退していった。自分に見切りを付けることもさることながら、絶望的な実力差がある中で挑戦を続ける強さが彼らには無かったからだ。

つまり、服部桜が現役を続け、連敗を重ねているのは彼が相撲に純粋で、強さに対して純粋だからこそだと思うのである。敗退行為から1年後、私はその名誉についてエントリーを残している。

こういう力士を笑い者にするのは、許し難いことだ。

このようなマインドの人達に大相撲中継を任せていいものかと疑問に思う。知識が無いこと、技術が稚拙であることは、努力で穴埋めすることは可能だ。だが、マインドがズレていることは、放送の方針に関わる大問題だ。

新しいファンを獲得するために、見失ってはいけないものを彼らは見失っている。そう考えると、彼らがBGMを導入しているのもマインドの欠如によるものではないかと不安になる。信頼を一度失うと、後追いで一つ一つの演出や行動にまで疑問が生じる。一つ一つの決定を、言葉で説明できるだけの骨が彼らにはあるのだろうか。服部桜を笑う彼らに。

山根千佳の罪と罰

ゲストで来ていた相撲アイドル山根千佳も、そういう彼らを諌められなかったという点に於いて同罪だと思う。放送のテンションが面白に寄せた内容だったからこそ、空気を読んだのかもしれない。そして、そうしたことは言いづらい立場でもあるのかもしれない。

相撲について語れる立場が少ないからこそ、この若いアイドルに多くを求めざるを得ないことについては気の毒だと思う。デーモン閣下が良心として君臨するほど、この世界は人材難が深刻なのだ。だからその部分を山根千佳に負わせることや、彼女が大相撲中継のゲストに多く呼ばれることについては不安と不満が入り混じる想いであった。

しかし彼女は「相撲アイドル」という立場であり、相撲が根幹にある芸能人だ。相撲の大事なことは抑えていなくてはならないと思う。それが出来なければ、肩書を外すべきだ。

ただ一番悪いのがAbemaTVであることは明白だ。演出を考える前に、大相撲に向き合う姿勢が問われていると思う。

このエントリーが原因で執筆依頼が来なくなると、私も困る。だが、言わねばならぬことを言わずに仕事を貰うようなライターに私はなりたくない。なぜなら私は、相撲ライターだからだ。

AbemaTVよ。
そして、山根千佳よ。
猛省せよ。

◆追記◆

服部桜が2勝目を挙げました。記事はこちら。

服部桜2勝目。最弱力士のサクセスストーリーとは異なる、服部桜ならではのドキュメンタリーが持つ意味とは?

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服部桜を笑うAbemaTVと山根千佳が、猛省せねばならない理由。” に対して6件のコメントがあります。

  1. より:

    一言返すようですが、西尾様が主張される服部桜のスタンスに違和感を感じます。

    彼は「負け続ける絶望的な自分自身を受け入れつつ挑戦している」訳ではなく「力士というアイデンティティーにしがみついている」だけにしか見えません。
    本当に、負けを受け入れて挑戦しているならば、もっと早く相撲という競技を覚える(すなわち、挑戦する「意思」を「結果」に出す)はずです。

  2. 酔いどれ太郎 より:

    人を笑い者にする行為は見苦しいと思います。ただ、服部桜のどこに敬意を払えばいいのでしょうか。負けることがわかってて挑み続ける姿勢でしょうか。笑い者にされてもなお、土俵に上がり続けるひたむきさでしょうか。
    アスリートがなぜ敬意を払われるのか。それは常人ではなし得ない努力を重ねることはもちろん、その上で常人ではなし得ないパフォーマンスを見せてくれるからではないでしょうか。服部桜は果たして敬意を払うまでの努力をし、それほどまでのパフォーマンスを発揮しているのか。わたしには疑問に思えます。
    たしかに中継する側として一定の節度は必要かもしれません。しかし、一コンテンツとして、放映権を支払っている側とすれば、裁量も認められてしかるべきです。その結果、視聴者から総スカンされるのであれば、それまでのものなのでしょう。
    ニシオさんは常日頃から理論的に説明しようと心がけておられるとは思いますが、最近の貴殿の言説は内輪向けの言葉になっているようにおもいます。自分たちの感覚の外にいる人間にも説得力を持って受け入れられる言葉こそ、理論的と言えるのではないでしょうか。貴殿の嫌悪されるやくみつる氏のように感じられます。ま、それもまた、こちらの勝手な受け取り方なのかもしれませんが。
    支離滅裂な文章で失礼いたしました。

  3. irsky より:

    服部桜以前に連敗記録を続けていた森麗は少しずつ強くなってるし、頑張ってるのが伝わってるから馬鹿にするな!って声も分かるんだけど
    服部桜は稽古映像見ても参加してる感じが無いし、これなら笑われても仕方ないのではと思ってしまう。
    来場所もし納谷か豊昇竜と当たるとなれば敗退行為は免れない。

  4. かず より:

    私もとんねるずに反感を覚えてたタイプなので仰りたいことはわかるのですが、服部桜に関しては、本当に相撲に賭けてるのであればもうちょっとやれるだろという印象の方が先行してしまいます。
    番付が全てで、普段の生活から明確な待遇差を設けてまでハングリー精神を養うような厳しい世界なのだから、結果を残せない以上心無いファンからの嘲笑は仕方ないことだろうし、本人も覚悟の上だと思います。
    悔しかったら強くなれ。も相撲の一面でしょう。

  5. 碧海 より:

    服部桜に唯一負けた力士、澤ノ富士がそれから着実に相撲のやり方を覚え、
    前相撲で全敗するような力士相手には勝ったり、勝てないまでも良い相撲を取れるようになってきたのに対し、
    敗退行為をした相撲以降なにか姿勢に変化があったように見えない服部桜を
    「勝利に向けて貪欲に努力している」とカウントするのはとても無理です。

    もし本当に努力しているのに今の姿があるのなら式秀親方に余りにも指導力がないことになります。
    頭から突っ込ませるなり変化させるなり、もう少しなにか教える手はあるはずです。

  6. AbemaTV、今日やっと観られる環境に来たので観てみましたが、かなり意図的な人選ですね。少なくとも今日の場合、三段目まではタレントがゲスト、幕下以上は親方が解説です。うまく(悪くいえばあざとく)考えたものです。

    ☆ ☆ ☆

    > デーモン閣下が良心として君臨するほど、
    > この世界は人材難が深刻なのだ。

    で、こちらの論点について誰も語っていないので一言。

    考えてみれば、元力士でそれなりの実績を残して、それでセカンドキャリアとしてテレビタレントに転身する人が、他のスポーツの場合と比べてあまりに少ないな、と思います。野球やサッカーの出身者ならワイドショーの常連が山ほどいますが、相撲だとトップクラスの実績を残した人は大抵が親方になってそのまま相撲界に残ってしまいますので(柔道とかでも同様かな?)、難しいんですかね。

    もうひとつ、プロ野球・サッカー男女・女子バレーボールあたりなら現役中から大きな大会のあとには各局から引っ張りだこになって、そこで局関係者や芸能事務所との接点もできますが、力士の場合はそういう接触の機会も少ない、という点もあります。

    ☆ ☆ ☆

    あと、関係者の「マインドのズレ」とおっしゃる事象についても、まだ絶望視するほどではないというのが現時点での私の印象です。幕下の段階から親方衆を呼んでいる以上、間違いなくアナウンサーもNHKの手練れの人と比較されますから、よほどひどい思い違いを起こしていなければ補正可能だと思いますよ。AbemaTVさん、海外サッカーの中継では実績があるようですし、昨年の大晦日には「朝青龍八番勝負」というビッグマッチを見事に放送しきったようですから、局の取締役クラスであればきちんと話の分かる人が揃っていると思います。

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