美ノ海の活躍が異質な理由。30歳以上の新入幕力士のその後を調べた

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美ノ海が自己最高位で良い相撲を取っている

大の里の快進撃が印象的な9月場所ですが、熱心なファンの方にとって印象的なのは美ノ海の活躍ではないかと思います。

幕内中位で普通に勝負になっていますし、むしろ彼らを相手に圧倒するような相撲も出ています。

平幕の中では今場所かなりの活躍をしている若隆景や遠藤を相手にも勝利を収めているということも、美ノ海の充実度を表しているように思います。

逆に言えば序盤戦で共に美ノ海に敗れていなければ彼らは優勝争いをもっといい位置で競えていたため、大の里が独走せずに済んだという考え方もあります。

言い換えると、美ノ海が今場所の流れを作った部分もあるということです。

ここのところ少し負けが出てきており、五分に近いところになってきてはいますが、美ノ海が良いという印象はかなり色濃く残っています。

その理由は、相撲内容です。

端的に言うと、自分の相撲が多くの相手に取れているように感じるのです。

早くて低くて、よく攻める。

上手をガッチリ掴まれていても、構うことなく走っていく取組もありました。

攻防がある相撲の中で崩されずに残して、反撃して価値を掴むという取組もありました。

この内容を見ると単に「よく当たれている」みたいな、絶好調の力士が止められなくなっているという意味合いでの強さではなく、地力も付いた、対応力も付いた、つまり、力士としての全体的な能力が上がっていると言えると思うのです。

ただ、一つかなり意外なことがあります。

それは、美ノ海がもう30歳を上回っていることです。

昇進時の年齢が低いほど最高位が高くなる傾向にある

私たちがトークライブをするときによく使うデータとして「昇進年齢」というものがあります。

端的に言うと、どんなに遅咲きの力士であっても十両や幕内については早い段階で昇進している、というものです。

最たる事例で言えば、千代の富士です。

26歳での横綱昇進というのは大横綱と言われる力士の中ではかなり遅いもので、確かに若いころは大きな相撲を取ることが原因で脱臼癖があったという話も残っています。

そのため、素早く攻めてウルフスペシャルで決めるような取り口は速攻相撲を身に着け、筋肉の鎧をまとった後ということになります。

ただ、十両への昇進は未完成だった19歳の頃に果たしています。

今の時代に十代での十両昇進を果たすと伯桜鵬のような騒がれ方をすることになりますが、当時の千代の富士はそういうレベルで頭角を現していました。

逆に言えば昇進年齢が上がるとどうしてもその後大きく伸びる力士の割合は減ってしまうのも事実です。

今回の話に戻ると、美ノ海のように幕内昇進が30歳を超えるような力士は上位総当たりの地位に定着するような活躍を見せることはデータ上ほぼ無いことなのです。

30歳を過ぎた新入幕力士は自己最高位を上げにくい

例えば明瀬山を例に取ると、新入幕は30歳で、自己最高位は前頭12枚目です。

また、星岩涛は新入幕時の前頭14枚目がそのまま自己最高位です。

他にもこのパターンの力士は双大竜や剣武、旭南海、北はり磨、安壮富士などかなり多く居ることも今回データを見て分かりました。

幕内には42名もの力士が在籍していますが、最初は一番下から始まります。

上位を見れば若いころから可能性を見せ、成長し続ける力士たちが切磋琢磨する中で、運動機能が衰えを見せ始める年齢で彼らに追いつくことはどうしても難しいのです。

相撲はコンタクトスポーツですから、消耗度も高いですしケガのリスクも常に付きまといます。高齢になってから積み上げていくこともさることながら、若いころにアンダーカテゴリーだと上位のコンタクトに対応し、自分の形を出していけないという競技が持つ特性も理由として挙げられるでしょう。

30歳以降での新入幕力士は、どうしても最高位が幕内下位になりがちということを覚えていただければと思います。

30歳以上の新入幕力士は活躍できるのか

それでは、美ノ海のように30歳を過ぎてから幕内で活躍を見せている力士は果たしているのでしょうか?

まず、最高位三役以上の力士を調べましたが、出てきませんでした。

これを上位総当たりのところまでラインを下げると、武州山(最高位前頭3枚目)、志摩ノ海(最高位前頭3枚目:新入幕は29歳)、琴椿(最高位前頭3枚目)が出ていました。

少しラインを下げて前頭5枚目前後まで見てみると、鬼竜川(最高位前頭6枚目:新入幕29歳)、蜂矢(最高位前頭6枚目)、琴春日(最高位前頭7枚目)、阿夢露(最高位前頭7枚目)、神幸(最高位前頭8枚目)といった顔ぶれが出てきました。

こう見ると想像よりは多いですし、最高位前頭7枚目の美ノ海はかなり健闘していると言っていいでしょう。

ただ、現役をリアルタイムで追いかけた中で考えてみると、これらの力士が一番よく戦っていたのは最高位よりも下のラインではあるんです。

ですから前頭7枚目で既に様々な相撲に対応できている美ノ海の異質さに気づかされました。

あと、新入幕の年齢は28歳ではありますが、このタイプで最近大活躍している力士がいます。

そう。

翔猿です。

翔猿も中堅からベテランと言われる年齢になるに連れて速くて強い当たりに対応できるようになり、持ち前の動きの良さが活きるようになりました。

強い当たりに対応する体を作ると動きの良さが失われるリスクもあります。数キロ単位で体が動かなくなる世界ですから、この二つを両立させていることは本当にすごいことだと思います。

美ノ海が目指す力士。

それは同じ大学の先輩である翔猿なのかもしれません。

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