力士は入門後に移籍出来ない!?その理由とは
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相撲部屋の繫栄を維持するのは難しい
昨日相撲部屋の勢力図の話についてアップしたところ、今の大相撲がどのようなものかがわかるものになりました。
相撲部屋の勢力ってその時々で変わるものですから、継続して良い状態を保つのはとても難しいことなんですよね。
単に指導が良いだけでも駄目ですし、スカウティングに優れているだけでも駄目です。
良い指導をするために相撲やトレーニングの最新事情を知らなければならないですし、最近では世の中の変化、特にコンプライアンス的な部分に対しても対応しなくてはなりません。
スカウティングに関しては言うまでもないのですが、これについてはアマチュア相撲界、特に有名校とのパイプも必要です。新しく部屋が出来、現役引退から間もない親方の指導を仰ぎたいと思うのは当然のことなので、ある程度開設から日数が経過した部屋は別の魅力を伝える必要があります。
部屋の運営という観点では他の部屋との相対評価になるので、伝統に胡坐をかいている訳にはいかないのですが、選ぶ側からすると少し事情がことなります。
というのも力士の部屋選びという点においては実は重要なルールがあります。
それは「一度部屋に所属したら移籍できない」ということです。
力士は一度入門すると基本的に移籍できない
力士の側からすると入門時がある意味クライマックスと言えるほど、選択が大変重要ということが言えます。
相撲部屋には実は様々なカラーがあります。保守的な部屋もあれば、革新的なものを打ち出す部屋もありますからね。
例えば稽古に対するスタンスでも大きく異なります。
相撲部屋には死ぬほど稽古をするというイメージをお持ちの方も居ると思います。これはある意味正解とも言えますが、昔のように稽古を「させる」というカラーを持つ部屋ばかりではありません。
最近では伊勢ケ浜部屋が旧来のような激しい稽古をするということを宮城野部屋が合流したときに言われましたが、力士の自主性を重んじて「させる」稽古ではない運営をしている部屋も存在しています。
番数をこなすことによって体力と自信、そして繰り返し試行錯誤することによって技術を習得するという考え方もありますし、体力の限界に迫りながら同じ動きを試すことで最終的に出来るようになっていく様を目の当たりにしたこともあります。
ただ、それを「コスパが悪い」と受け止める考え方もありますし、させられる稽古よりも自分で工夫することを許容してほしいと考える力士だって居ます。これはアマチュアでの実績を積み重ねるとよりその傾向が強まるように個人的には思います。
相撲部屋にはそれぞれカラーがあり、それに合わせて入門する必要があるということなんですね。
部屋の方針と合わないことから引退した事例
ただ、これに関しては入ってみなければ分からないということもあります。過去には指導方針の違いから引退した力士も居ます。
例えば活字として残っている事例であれば春日野部屋に在籍していた栃乃若が挙げられます。
流石にこのように明確な形で指導方針の食い違いについて言及したうえで引退していくことはそうはありません。私自身相撲部屋選びの重要性の話をするときここ10年近く栃乃若の話をしているように思います。
ただ、栃乃若に関しては高校横綱でしたし、体格的にも申し分ないものを持っている力士でした。
幕下で3年くらい停滞することはありましたが、そこから上位総当たりの地位までは早く、昇進時期が閉塞感のあった2012年頃ということもあり、次世代力士として期待している部分も大きかったんです。
それ故にそこからの停滞があり、引退理由を聞いて妙に合点がいく部分がありました。
なお、当時の記事はこちらです。
移籍を認めるとどういうことになるのか
では、移籍を認めたら良いじゃないか?
という指摘についてです。
他の競技ではこれを認めていますからね。何故相撲に関してはそれが出来ないのか?という目で見る方も多いのではないかと思います。
実は完全にNGという訳ではなく、部屋の閉鎖に伴う場合と部屋付きの親方が独立する場合に関しては移籍が認められています。
ただこれは、あくまでもそのような状況に遭遇したときのみのことなんですよね。ですから、力士自身が選べる権利というのは現実的には無い訳です。
力士が移籍できない理由。
それは、引き抜きを許容してしまうことに繋がるからと言われています。
まぁこれに関しては仕方ないとも思います。
政治力と財力があればある程度育ってきた期待の若手を根こそぎ持っていくことが可能になってしまいますからね。
良いバランスで移籍を認める案は無いか
もしこれを認めるという方向に舵を切るのであれば、マネーゲームを阻止するための仕組み作りも大事になってきますが、抜け穴が無い状態で運用するのはかなり難しいことです。
野球のフリーエージェント制度のような形で整備していくことも一つの方法ではないかと思いますが、制度はそのままにしておいて部屋選びを重要視することによってアンマッチを防ぐというのはメリットデメリットを考慮すれば悪くない判断ではないかと個人的には思います。
栃乃若の事例が防げないというデメリットがある一方で移籍の自由化に伴う混乱や不均衡、不平等が予防できるというメリットもあるわけですからね。
なお、私個人としては移籍に関しては引き抜きを防止し、伸び悩んでいる力士の救済策という目的で「25歳以上で過去1年に幕下30枚目以下に在籍し続けた力士限定で認める」くらいの案であれば導入しても良いと思います。
これは野球で言うところの現役ドラフト制度に近い考え方だと思います。即戦力になるような力士であれば引き抜きになりますが、これは防止できますからね。
ただ、受け入れる部屋としてはメリットが少なく、抜かれた部屋との関係性が悪化するリスクもあるので、導入しても活用されないとは思いますが・・・。
大相撲の制度については改善したほうが良いように見受けられるものもありますが、変えようとすると別のデメリットが生じることもあり、余程のことが無ければ基本的には保守に寄りがちです。
このブログを運営しながら私は現行制度の中で問題点がどこにあるのかを把握し、それを避けるために立ち回っていくことの方が現実的ではないかと考えるようになりました。出来ないことを主張しても仕方ないですから。
何故現行の制度が生き永らえているのかという点に対して目を向けていくことは、相撲の世界に限らず大事なことです。長い歴史の中で最適化してきた経緯があるのですから。