玉鷲40代突入の快挙をデータから紐解く
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玉鷲が40代に突入した
玉鷲が九州場所中に40歳になりました。
その日の取組も実に玉鷲らしい突き押しでの攻めての相撲での勝利で、館内は大いに盛り上がりました。
インタビューでも三役を目指すという言葉が出たように、気持ちも若いですし、何よりも体も相撲も若いことが特筆すべき点であるように思います。
力士は30歳を超えると徐々に体が衰えてくることが多く、見た目にもそれが隠せくなることも少なくありません。
スピードで対応できなくなる力士も居れば、攻めの圧力が失われて持ちこたえられてしまう力士も居ます。
これらは肉体的な衰えの影響ということもあれば、ケガによる影響というパターンもあり、両方を同時に防がねばベテランという歳まで続けられません。
玉鷲の場合は連続出場記録も保持していますし、見た目にも優勝した頃との違いは殆ど感じられません。
旭天鵬が40歳を迎えた時も見た目に変わらなかったことが印象的でしたが、玉鷲も同じくらい若いのです。
突き押しというのは威力が落ちると一気に番付を落とすことがあり、予期していなかった力士が気が付いたら引退というケースも少なくないのですが、まだその兆候すら見えないのは驚異的と言えるでしょう。
40代での関取は大変珍しい
さて。
40歳の現役がどれだけ凄いかを改めて検証してみましょう。
年6場所以降の40代幕内は何しろ旭天鵬と玉鷲の二人しか居ません。
もうこれだけで説明が終わっているようにも感じますが、40代関取にまで範囲を広げてもそこに安美錦が追加されるだけなのです。
70年あまりの中で3人。
しかも、つい最近の力士だけであるところに昔は成立しえなかった大記録であることが伺えます。
更にこれを幕下に拡げてみても牧本、大潮、琴冠佑、栃天晃、輝面龍、出羽の郷しか居ません。
1990年以前では牧本と大潮だけが40代で、そもそもこのような年齢だと現役で相撲を取る力士は存在しない時代でした。
2000年代後半から徐々に40代力士は増えてきましたが、栃天晃に代表されるように幕下からまだ上位を目指す力士が多い傾向にありました。
明確に傾向がかわってきたのが2010年前後からで、この辺りから40代力士が毎年のように登場するようになりました。
四股名を見てもよほどの相撲ファンでなければ分からないような力士が大半を占める中で旭天鵬、安美錦、玉鷲が名前を連ねるという二極化が起きているのです。
40代関取以外の力士たちはその後世話人になったりちゃんこ長であったりと、純粋に力士にこだわる以外のところに動機がある場合も見受けられます。
考えてみると私が若かったころは高砂部屋の一ノ矢が異例の40代力士ということで話題になる時代だったんですよね。
力士と部屋でお互いにメリットがあり、長く現役を続ける事例が増えているというのはこれもまた時代だと感じさせられます。
現役親方だと30代後半での引退すら珍しい
そして40代で関取を続けられる凄さを別の側面から見てみましょう。
現在相撲協会に在籍する親方の引退時の年齢を以下にまとめました。
これを見て驚くのは、三十代後半まで現役を続けている事例すら稀だということです。
確かに現役の親方が対象なので、引退したのが1990年代という事例も多く、そもそも長く現役を務めるという時代ではなかったという側面もあるかと思います。
先にも述べたように、40代の現役すら稀な時代でしたからね。
ただ、相撲も含めて様々な競技で選手生命が長くなる傾向にあると語られてはいますが、まだ相撲に関してはそこまででもないことはこの資料からも分かると思います。
相撲と他の競技の明確な違いは、ケガなどの影響があっても長期間治療に当てられないことが挙げられます。
現役生活は長くても、数年間は治療のため出場が殆どないという選手が他の競技にはちらほらと見られます。
休場していれば大きく番付を落としてしまうので、現役を長く務めるにはケガをしないこと、そしてケガをしたとしてもある程度は結果を残せなければなりません。
安美錦のように、ケガをしたからこそ辿り着いた妖術のような取り口も見られるので、そこに適応することが大事と言えるでしょう。
現役は長くなっているがケガしやすい時代
40代の現役力士自体は増えていますが、トップレベルでしのぎを削れる玉鷲のような存在は今も昔も稀で、二つのデータからもそのすごさがお分かりいただけたと思います。
昨日のNHKの中継の中では舞の海さんが「玉鷲は四つ相撲だとしたらこんなに現役を長く続けることは出来なかった」と発言されていましたが、専門家の目によると続けるための相撲というのも存在するようです。
四つ相撲の方が攻められた時に無理な体勢になりにくい印象があり、私の持論では四つ相撲は調子を落とすとケガをしやすいというものがあったのですが、必ずしもそういうわけでもなさそうです。
スピードとパワーの掛け算で相撲を取るのが最近のトレンドですから、160キロ前後の力士が大多数で、しかもその力士たちが素早い攻防を行う。
休場しないまでも体に負担がかかりやすい時代と言えるでしょう。
ここ5年程度この傾向は変わらずに来ていますから、トレーニングで衰えを防げる反面でどこかで壊れてしまう可能性もまた増加しているのも事実。
時代の変化に対応し、怪我せず衰えもせず現役を長く続けられている玉鷲のような力士が今後も出てきてほしいところではありますが、なかなか難しいのではないかとも思います。
それくらい、稀なものを私たちは目撃しているのです。