元貴景勝の湊川親方の解説はアンチにこそ見てほしい
Contents
元貴景勝の湊川親方の初解説が実によかった
元大関貴景勝の湊川親方が大相撲7日目のNHK解説に登場しました。
これ、本当に良かったです。
元々メディアの取材にはそれほど多くを語らない力士で、勝った相撲の後でもニコリともせずに「普通です」と振り返るのが恒例でした。
ただ、バラエティでは大栄翔との関係を笑顔で語っていたように、土俵を降りた時の姿については別の顔があることは多くの方の知るところではあったんですよね。
そのような姿を見せることは稀で、「情熱大陸」のようなドキュメンタリーでもファンサービスをする時の顔は少し見えましたが、ほぼ大部分は取組後のインタビューの延長線上にある、オフィシャルな貴景勝だったように感じていました。
基本的にはストイックで、しかしどうやら28歳の若者という側面もあるらしい。しかし、実際にどういう人なのか?何を考えているのか?ということはほとんど分からない。
私が貴景勝に対して抱いていたのはそんな人物像だったように思います。
しかし。
7日目のNHK解説を聞いてみて印象が大きく変わりました。
現役時代には知らなかったが、湊川親方は素敵な人だった
一言で表すと、こんな素敵な人だったのか、と。
力士に対して愛があり、敬意がある。言葉を持っていて、分かりやすく伝える話術もある。
そして何より、穏やかな笑顔がある。
現役時代からは知る由もなかった人物像がそこにはありました。
一つ一つの取組について解説していくときの分析力は流石だと思いましたし、何が良くて何が悪いのかを一般視聴者のレベルでも理解できるように「解説」していました。
本来解説ってこういうものだと思うんですが、どうしても相撲というのは精神論が強く、親方の立場として厳しさを見せねばならないという側面もあるため、細かく語らない様子が多く見られ、果たしてそれを解説と呼んで良いのかは常に疑問を抱いていました。
湊川親方にはそのような部分は感じられず、丁寧に想いを語っていることに好感を持ちました。
また、一人一人の力士に対する分析が新鮮な切り口で、また大関という立場から非常によく観察していることがうかがえました。
シビアに見ながらも警戒すべき点については敬意を表しており、そうした語り口は従来の親方にはなかなか無いものだったんですよね。
軽妙な語り口の親方、リスペクトで語れる親方、分析力のある親方、愛すべき人柄の親方はそれぞれ居ても、全てを備えた親方は居なかったように思います。
湊川親方は、解説に非常に向いていたんですよ。
湊川親方と中村親方の掛け合いで見えたこと
何よりも湊川親方の良さが光ったのは、元嘉風の中村親方との掛け合いでした。
現役中は知る由もないことでしたが、実は湊川親方は中村親方の相撲を参考にしたというのは驚きでした。
ただ、昇進間もないころの対戦を取り上げ、VTRで解説をしていくとその部分が実にクリアになりました。
お互いがしようとしていることがほぼ同じだったのです。
貴景勝のスタイルは私も何度も話してきたように「安定感のある突き押し相撲」で、冒頭でもそれを目指すための試行錯誤があったということでした。
そして安定して優位に進めるための方法として辿り着いたのが嘉風のフェイントや攻め方、攻める姿勢というのは話を聞けば聞くほどに納得感がありました。
このような話を通じて見えてくるのが、嘉風に対するリスペクトだったんですよね。
これを受けての中村親方の言葉もまたとても良いものでした。
嬉しそうで、照れくさそうで、貴景勝へのリスペクトで返す。
気を遣ってお互いをほめ合うというのは社会人だとたまにあるシーンだと思います。そういうのは観ている人にも伝わってしまうので変な空気になりがちなのですが、心からそのように感じている者同士の新鮮なやり取りなので観ていて本当に良かった。
湊川親方が想いを伝えることで、中村親方の新たな扉を開いていく。
相撲解説では実はこのようなカップリングがほかにもあり、その組み合わせ次第ではお互いの可能性を広げ、視聴者が更に楽しめるのではないか?と思うような放送でした。
アンチ感情を抱いている人は、知らない部分を想像してほしい
今回の機会については視聴者として楽しめたことは勿論良かったと思ったのですが、もう一つ大事なことを私は思いました。
貴景勝にアンチ感情を抱いていた人に見てほしかった、ということです。
貴景勝は根強いファンを多数抱える一方で、取り口や元師匠の影響、更には一部貴景勝ファンへの反感が転じたことが理由でアンチが多いことでも知られていました。
これだけの実績と立場がある力士であればアンチは一定数居るのが普通ですのでそれ自体は特に気にしなくても良いとは思います。
ただ、そこまで嫌わなくても良いのではないか?という反応もかなりあったんです。
嫌う理由は分からなくもないけど、激しすぎるんですよ。
湊川親方は他の力士と対戦する以上、交流を持たなかったということを放送中に語っていました。
ここまで力士に経緯と愛がある人が、その部分をひた隠しにしながらストイックに大関として、力士としての務めを果たすため、気持ちに蓋をして取り組み続けてきた。
そういうプロフェッショナリズムからの行動だったと知ったら、どうでしょうか?
それでも振る舞いなどが相いれないということはありますし、全く問題ないと思います。
しかし、湊川親方の話を聞くことによって分かったのは、報道や取組ではうかがい知ることのできない人物像が力士にはあるということです。
好きになれない力士、親方、関係者というのはどうしても居ると思います。
とはいえ、湊川親方のようにそこまで嫌わなくても良い可能性もあるのです。
「もしかすると私が知らないだけで、別の面があるかもしれない」
そう考えるだけで、嫌いという感情を俯瞰できるのではないかと思うのです。
それが出来た時、SNSでの書き方や人に対して発する言葉は変化するのではないでしょうか。
勿論今回の湊川親方の解説は素晴らしかったし、今後も是非聞いてみたい。オールナイトニッポンで聞いてみたいくらいだとも思いました。
しかしそれだけで終わらせるのは勿体ない。
全ての相撲ファンに見て、聴いて、知ることによってファンは勿論、アンチ行動を見直すきっかけになれば良い。そんな風に感じたのでした。