2023年九州場所総括(前編)上位陣のそれぞれの真価が問われる初場所
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終始安定し優勝した霧島と、綱取りに失敗した貴景勝
九州場所全体を終わった後で全体的に振り返ろうと思う。
上位を見ると、いよいよ小結以下との差がついてきたように感じる結果になった。
優勝した霧島は中盤での取りこぼしが2番あったものの、終盤戦の負けられない取組で勝ち続けたことを考えると抜けた存在になりつつあると言えるかもしれない。
ただ、7月に途中休場、9月は9勝ということでまだ地力が見えないところもある。11月が安定していたように見えて実はすべてがかみ合ったという可能性もある。とりあえず1月次第かもしれない。
綱取りの重圧がある中で臨む霧島は真価が問われる。霧島が話題の中心ということは今までになかったからだ。
貴景勝は綱取りという意味で考えると落第、完全に出直しという結果だったが、場所前に首を痛めて当たりが全く戻らない中での9勝という結果は悪くない。いや、この内容でよく9番勝てたものだと思う。
貴景勝の相撲の前提条件が無いところから今の当たりで出来る相撲を取ることに徹し、途中まで綱取りを維持できたと見ると意味はあった。ただ、苦しい中での9勝というのは大関であれば及第だが、仮に綱取りを果たしたとしたら今場所の相撲では厳しい声が挙がることが想像できる。
「状態を考えると素晴らしい」「目指す先を考えると…」というのが今場所の貴景勝の評価だろう。
良い相撲も多かったが、大きく崩れた琴ノ若、大栄翔、豊昇龍
琴ノ若は攻めの積極性と恐るべき守りの固さを見せた。
このまま大関に手が届くか?と考えるほど、どんなに強く当たられても止めてしまう。まるで白鵬のような鉄壁の守りはどのように攻略すれば良いのか?と考えさせられたし、それほど脅威といえる相撲をとれていたように感じた。
ただ、霧島戦では密着され、頭を付けられた。そこから素早く重心を崩されたのはかなり痛かった。翌日の竜電にも全く同じことをされたのだから。その翌日の湘南乃海にも同じ展開に持ち込まれそうな雰囲気はあった。恐らくもう、全ての力士が琴ノ若対策を知ってしまった。
ひょっとすると今場所で見せた強さ以上に対策が明らかになったことの方が大きかった可能性すらある。あと1か月半でどのように修正するか。3月の大関獲りが現実的なところだと思う。
大栄翔はツボに入ると本当に強い。誰でも押し切れる凄まじい突き押しだ。3人が大関獲りだった名古屋場所の頃からそれほど状態は変わっていない。つまりそれだけ良い相撲が維持できているということだ。
ただ、琴ノ若の堅牢な守りの前に屈した5日目から相撲が崩れた。攻めのリズムに狂いが生じ、5日で4敗。今までの大栄翔には見られなかった部分だ。突き押し相撲は良い時は良いが、状態が悪いと途端に勝てなくなるという特徴は大栄翔にも当てはまる。悪いなりに勝ちを拾う相撲が取れたら更に星は伸ばせると思う。
豊昇龍は10勝5敗の相撲ではない印象がある。速さと強さと荒さが強さを印象付けているのかもしれないが、良い時の豊昇龍は守りながら攻めているような相撲を見せることがある。そのくらい獰猛だ。
ただ、意外と脆いところがある。15日間安定している訳ではないし、敗れた時にあっさりしていることもある。どこか痛めているのか?と勘繰るようなときがあるほどで、謎の究明を早急に行うことが求められる。
総崩れに近い小結以下だが、来場所は序盤から大物食いの可能性も
小結以下は総崩れに近い。
こんな場所は近年では珍しいレベルだ。
恐らくこの上位を相手に序盤戦を戦うとなかなか星が上がらないということなのだと思う。
実際に勝ち越している宇良でさえ5日まで連敗スタートなのだ。これは相当厳しいということが言えるのではないかと思う。
3大関に大栄翔・琴ノ若を加えた5人が強烈なのだ。逆に言えば、小結以下だとそれほど実力差が無いと言えるのではないだろうか。
逆に言えば、対戦経験が豊富なのに今回の上位総当たりで2桁勝てた高安は相当強い。何しろ霧島と豊昇龍には完勝しているのだ。
トリッキーな宇良とツボに入ると現役最高峰の高安の2人は序盤の頭痛のタネと言っていいレベルだ。
そして当たりの強さは上位でも通用することを証明した豪ノ山、横の動きが非常に良い翠富士、巻き返しを図る若元春といったタイプの異なる強豪が上位と初日から当たることから、来場所は上位が序盤から食われてもおかしくない。
今の上位総当たりは序盤で乗り切れないと勝ち越しが本当に厳しくなってしまう。誰とやっても確実に勝てそうな相手が見当たらない。
上位総当たりの初場所は熱海富士の真価が問われる
熱海富士はどうなるのだろう。
2場所連続で可能性を見せ、最後の2日、いや、霧島との取組で完全に狂わされてしまった。
この2場所の良さは果たして引き継がれるのだろうか。来場所はいよいよ上位総当たりでの闘いとなる。先ほども触れたが序盤から強豪と当たるとなかなか立て直せない。勝ち越すには序盤でもある程度星を上げねばならない。
だが流石にこの21歳の新鋭を相手にいいようにやられ続けるという訳にもいかない。
高安は良さを封じて勝つ強い内容だったが、豊昇龍には攻めを許したし、霧島と琴ノ若には相撲になっていなかった。結局まだ、上位総当たりに於ける熱海富士の実力は見えたようで全く分からない。
怖いのは、良い状態で2場所とも上位に挑んでいるのに、かなりキッチリ敗れている相撲も多いということだ。
熱海富士の現在地が明らかになる初場所と言えるだろう。恐らくこの巡業や場所直前で、他の力士は熱海富士対策を施してくるはずだ。その時に果たしてどれだけやれるのだろうか。楽しみだが不安でもある。
後半に続く。
イベント情報
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