逸ノ城と、遠藤。「上位対戦から3〜4年でエレベーター力士を卒業できる説」を提唱する。
高安。
嘉風。
玉鷲。
そして、栃ノ心。
彼らの共通点、お分かりだろうか。
相撲のスタイルでもない。
学年でもない。
体型的なことでもない。
それは、かつてエレベーター力士だったということだ。そして更には、彼らはそういう立場を継続しながら自分の殻を破り、上位でも勝てる力士になったということである。
子供の頃から相撲を観ているが、かつてこのような力士は稀だった。誰が居るだろうかと思い出してみるが、あまり思い出せない。
エレベーター力士というのは基本的にそうそう変わるものではない。上位で勝てる力士は最初から勝てるし、通用しない力士は通用しない。だからこそ、番付を駆け上がる力士は駆け上がるし、上位総当たりのところで安定する力士は安定する。そして、エレベーター力士はエレベーターのままだ。関脇や小結が1場所だけという力士が多いのは、つまりそういうことである。
だが、その潮流がここ最近変わってきている。
エレベーター力士が、続々と上位で勝てるようになっているのだ。
ある力士は怪我で低迷し、またある力士は上位との力量差で跳ね返される。以前は上位でもあまり期待できなかった力士が、自分の相撲を磨き、勝てないながらもトライアンドエラーを重ねて勝てるようになる。
これは、かなり夢があることだと思う。
最近で言えば千代大龍がここに含まれるし、番付を落としているが宝富士や勢や魁聖も上位で結果を残せるようになった力士だ。これだけ多くの力士が殻を破っているとすると、次は誰かと期待することになる。
そこで傾向を探ろうと彼らの成績を振り返ると、面白いことが分かった。彼らの多くが、上位との初対戦から3年から4年で勝てるようになった、ということである。
理屈を考えてみると、上位の顔触れはここ数年そう変わっていないのだから、横綱や大関の相撲に慣れ、傾向が分かり、分析が出来るまでこれだけの歳月が掛かるということではないかと思う。
では、初の上位フル対戦から3〜4年の力士となると、果たして誰が居るのだろうか。すると実に面白い二人が浮上してきた。
そう。
逸ノ城と、遠藤である。
逸ノ城はブレイク当初、上位でも勝つことができていた。だが、彼の場合は逆に横綱や大関が対策を取り、次第に勝てなくなった。三役から幕内上位、そして下位へと番付を落とした。
遠藤は横綱や大関が相手でも勝てる力士ではあったが、15日をトータルで見ると負け越してしまう力士だった。前みつが取れると強いのだが、取るまでに土俵を割ってしまう。突き押しから前みつを取るという新戦法を試している間に大怪我をして、精彩を欠くようになってしまった。
両者共に低迷をしていた経緯があり、逸ノ城は自分の相撲を再構築するまでに3年近く、遠藤は怪我から復調するまでにやはり3年掛かっている。
これは恐らく偶然ではない。逸ノ城は既にブレイク間近だし、遠藤も怪我後では最も良い相撲が取れていることは間違いないからだ。元々可能性を見せていた2人の力士だ。照ノ富士が現れるまでは最も期待感の高かった力士である。そしてあの時の可能性を、二人は今また見せつつある。
諦めずに、腐らずに、正しく努力を重ねれば4年後には花開く。石の上にも三年と言うが、諺の世界の話ではなく現実の話として受け止められたら、多くの力士の勇気になるのではないかと思う。
例えば、琴勇輝。
例えば、千代鳳。
そういう力士のためにも、逸ノ城と遠藤には期待したいのだ。
◆トークライブのお知らせ◆
2月4日18時より錦糸町丸井のすみだ産業会館でトークライブ「第5回幕内相撲の知ってるつもり⁉︎」を開催します。今回も週末に実施しますので、皆様奮ってご参加ください。テーマは「横綱とは何ぞや」です。
むしろ新入幕から2年足らずで横綱に昇進した大鵬や、幕下最下位付出デビューから3年半で横綱に上がった輪島、前相撲から丸4年で横綱昇進した朝青龍のほうが少数派なのではないか。いわゆる「天才」と言われる力士だ。
「人生」というスパンで考えると、輪島や朝青龍はもう少しエレベーターを味わったほうが良かった気がするが、それはともかく。
遠藤は十両1場所通過で新入幕、初土俵の次の年には顔出し看板やらお姫様抱っこやら、とうとうまともな四股名が付けられないまま現在に至る。CM出演も多数、レッドカーペットの上を歩いてきたような力士だが、実は「いぶし銀」タイプの力士ではないかと思う。ケガが多く、幕内・十両の往復が続く妙義龍が近いタイプだろう。
逸ノ城は新入幕で優勝しそうになった。初土俵から5場所目だ。彼もあっという間にCMが決まった。
ただ腰を痛めて全休した場所もあり、昨年の九州場所、稀勢の里に相撲を取らせず快勝した翌日、大翔丸に押されてズルズル後退して惨敗、という好不調が激しい場所が続いた。個人的には「大器晩成」タイプだと思っている。
両力士とも、番附のエレベーター期間も長かったが、マスコミに梯子掛けて外されるような破目にも遭っている。土俵外の不祥事もないし、浮いた噂も聞かないが。
千代の富士は入幕後、肩の脱臼で幕下まで陥落して再起した。横綱・大関でも「エレベーター生活」を経て昇進した力士は何人もいる。30歳過ぎてから昇進した力士もいる。観ているほうが「アイツも所詮人気者止まりよ」とか、勝手に評価することは慎みたい、とつくづく思う。