2023年九州場所総括(後編)十両も幕下も厳しい2023年
Contents
ベテランの元気が良く、若手の出世が遅れている
ベテラン勢で元気のよい力士が目立った九州場所だったようにも感じた。
玉鷲、佐田の海、竜電もここに入るだろうか。33歳だから十分ベテランだが、竜電をベテランというカテゴリに入れるのは些か抵抗がある。何故だ。
若手の台頭が著しく、昭和生まれの力士が姿を消しつつある中で、これだけ頑張れるのは素晴らしいことだ。
体が衰えていないし、長所が幕内の中でも十分に際立っている。決して「全盛期を彷彿とさせる」相撲ではなく、全盛期と変わらない相撲と言っていいだろう。
このような相撲を取ってもらえると10年前から見ているこちらとしては嬉しくなるが、中堅や若手の身としては彼らが元気でいる間は幕内の座席が確保されてしまうことを意味している。
十両や幕下上位で渋滞する大卒力士達やそこに蓋をされる形で総合力の面で劣る十代の力士たちが出世が遅れている。北の若や狼雅、東白龍がようやく幕内に上がってきたのに1場所で跳ね返されたのはこのような構図によるところだ。
ファンの目線で見ると複雑なところだが、若手が彼らのようなベテランを一気に越えてこそ次世代の大相撲が見えてくるのではないかと思う。
輝でも10敗する。十両が更に厳しくなってきた
十両は十両で非常に厳しくなってきた。
大の里のような地力のある若手はすんなりと通過するい疱で、千代翔馬や大奄美、水戸龍といったあたりの経験豊かな力士たちがまだまだここに居る。力が無いと抜けられないし、少し調子が悪いと幕内下位の格の力士でも平気で負け越してしまう。
本来最も脂ののってきている年齢であるはずの輝きが10敗してしまうことからもそれは明らかだ。
千代丸、天空海、英乃海辺りがかなり厳しい。ベテランには見えないが、彼らも年齢を見ればベテランそのものだ。
相撲そのものはそこまで衰えていないのかもしれないが、下からの突き上げと総合力ある力士の渋滞という理由から、弾かれる力士が多発しているのも現在の十両の大きな特徴であるように見える。
貴健斗が大負けするのが今の十両だ。コンディションは悪そうではあったが日翔志が2勝というのも恐ろしい。
白鷹山が戻ってきても、果たしてどこまでやれるのか。尊富士はすんなり通過する側の力士なのか、もしくは十両でサバイブするタイプの力士なのか、十両というのは本当に分からない。意外と出来る力士もいれば、通過しそうな力士が残ってしまうこともある。そして、脱落するタイプも居る。
それはもう、実際に昇進して15日闘って見ないと我々には分からないのだ。
神がかり的な北播磨も手が届かない十両
そして更に渋滞しているのが幕下だ。
中卒たたき上げも、大卒で関取経験のある力士も、外国人も、皆ここに滞留してきている。年々この層が分厚くなっているように感じる。
期待としては吉井や大辻、徳之武蔵といった辺りの新鋭にすんなりと通過してほしいところだが、なかなかそれを許してもらえない。
となると北の若や狼雅くらいの年齢になるまでここで地力を付けねばならないが、上に行ったら行ったでまた壁がある。なんという世界だ。
そこで特筆すべきがやはり今場所大活躍だった北播磨ということになる。
前の場所で三段目だった37歳が、相撲も体型も変わる中であそこまでやれるというのは快挙と言っていいと思う。
今の幕下上位は若隆景ですら2敗してしまうような地位であることからも、その素晴らしさはよく分かる。
返す返すも最後の1番で勝てなかったことは残念でならないが、正直なところ付け入るスキはあまり無かったようにも感じる。
聖富士のような力士が十両に昇進するのが今の幕下のトレンドなのだ。非常に厳しい話ではあるのだが。
そのほかの所感
そのほかの雑多なところで言えば、水入りだろうか。
最近は10秒以内で決まる取組が多く、1分を超えてくることでさえそう無いことから、2回も水入りが観られるというのは嬉しいような、妙な感覚もあった。
その相手が北青鵬という、膠着したら基本的に動かない、相手が動くのを待つという特殊な相撲を取る力士が相手だったことも非常に大きかったように思う。
これに関しては北青鵬が今の戦略を取り続ける限りまた出る可能性もあるが、掴まれても密着して素早く倒すという新しい北青鵬セオリーが出来つつあるのでトレンドにはなり得ないのかもしれない。それは北青鵬次第だ。
今場所は物言いが多かった。VAR判定については他の競技でも疑わしきはチェックという傾向にあり、大相撲もそれと同じ方向になってきているということなのかもしれない。
観ている側としては非常に有難い。映像が出る以上、手を上げずに疑惑の判定が出てしまうということも最近では幾つかあったからだ。判定に関する部分で今場所はそれほど大きなトラブルもなく、良い場所だったと言えるのではないかと思う。
一方で割に関しては考えさせられる結果になった。
熱海富士が霧島に勝っていたら、果たしてどうだったのだろうか?上位総当たり圏内の力士と4戦のみで優勝としてしまって良いのだろうか?
今の組み方は、上位が下位に勝つことがある程度前提になっている。そうは勝てないからこそ、上位同士の対戦を優先させるという考え方だ。
今後も熱海富士のような力士が現れた時に上位が4戦だけで貫録を見せられるのか否かという点が焦点になるだろう。
個人的には全体的に良い場所だったと思う。上位が強く、若手も台頭し、大きな問題は発生しなかった。
2024年が大相撲にとって果たしてどんな年になるのか。何かが発生した時に即座に対処できるか?ということが大きなポイントではないかと思う。
伝統を守りながら、現在の問題も注視し、適切な判断を下す。口で言うのは簡単だが、大変なのは当事者だ。ただ、大変だからと言って何も主張できないというのは違うと思う。
大変な立場だということは理解しつつも、見ている側の所感は示していく。しかもそれを極力フラットな視点で。これもまた大変なことだが、私にできるのはそういった点だけだ。
また来年も相撲を楽しみ、相撲を真剣に見つめていきたい。