2024年初場所12日目所感 平幕優勝がそう出ない時代が来たのかもしれない
Contents
平幕優勝は事件だった時代があった
白鵬が休場するようになってから、平幕優勝が頻繁に起こるようになりました。
平幕優勝って、私が最初に相撲を観始めたころは多賀竜が少し前にやったことがあるということでしか知らないものでした。
多賀竜ですからね。
子供心に優勝とあまり結びつかない力士で、そんなことがあったのかと思ったものです。
そして私がリアルタイムで観た最初の優勝は琴富士で、その印象は多賀竜の時と全く同じものでした。
普段は優勝争いとは無縁のところで渋い相撲を取っている力士が、魔法が掛かったように連勝し、その勢いのままに上位も食ってしまう。
つまり、平幕優勝って事件だったんですよね。
平幕が神がかり、上位が呑まれる時代に
で、最近の平幕優勝っていうのはそれとはかなり趣が異なるものだったんです。
上位が潰し合いをする中で、優勝争いのトップかそれに近いところに平幕が居て、上位の力士に平幕がなんか勝っちゃう。
大体千秋楽に近くなってくると上位の最後の砦と闘うんですけど、生涯最高の相撲を取られちゃうんですよね。
最高の立ち合いを決めて、一気に持っていく。
上位の力士はそういう勢いに吞まれていく。
自分に出来る一番の相撲をぶつけに行って、プレッシャーに勝って、それが出せる。そして上位の力士はその覚悟と最高の相撲に屈していく。
だから、仕切りの時から大体雰囲気出ているんですよね。平幕が飲む空気と、平幕に呑まれる空気です。
そして今日は、優勝争いの懸かった上位力士がいずれも下位の優秀者との対戦が組まれました。
平幕の相撲を受け流す上位力士達
今日の取組はとにかく興味深かったんです。
下位の力士のマインドは、平幕優勝が続いていたあの頃と同じでした。
阿武咲も、隆の勝も、大の里も、全員今の自分の相撲を純粋にぶつけに行きましたからね。玉鷲も似たようなところがありました。
全員良い当たりだったと思います。上位の力士を相手に良い集中力と、良い相撲を取りに行けたんですよ。
ある程度当たれていましたし、少なくとも立ち合いでは負けてはいなかった。上位に呑まれて終わったという相撲で無かったのは確かです。
ただ。
上位がいずれも余裕があるんですよね。
体幹が崩されない体力もあるし、相手がどういう相撲を取りに来ているのかも重々承知している。
そして何よりも下位の力士が野心を持って臨んでいるのに、落ち着いているんですよ。
さらっと受け流して、そんなことは分かっていますよと言わんばかりに勝ってしまう。そういう相撲を琴ノ若も豊昇龍も霧島も照ノ富士も取り切った。
もう平幕優勝はそう出ない時代が来たのかもしれない
平幕の上位挑戦って本来こういうものだよなぁと思いました。
多賀竜と琴富士の例はごくまれに起きることだったんですよ。
私が覚えていないだけで、今日の大の里みたいに序盤に成績が優秀で、上位と当たって連敗するような力士って当時も居たはずなんです。
ひょっとしたら今のように上位が余裕でなければ、4人のうち誰かが勝っている可能性もあったんじゃないかと思います。
それくらい今日の平幕力士たちは良い立ち合いを見せていたんです。
でも、それを余裕を持って跳ね返せる力士が上位に居て、全員が揃って番付というものを見せてくれた。
強い力士が強い相撲を取るからこそ相撲は面白いし、仮に下位の力士が勝つにしても上位が存在感があるからこそ映えると思うんですよ。
もう平幕優勝なんてそうは出てこない時代が来てしまったのかもしれません。そのことがこんなに有難いことなのだということを、この数年で私は知ったのです。