照ノ富士の初日の敗戦を「異変」と捉えた理由
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優勝予想は本当に難しい
相撲ライターという仕事をしてみて、場所中に一番困ることって何か知っていますか?
それは、優勝予想を聞かれることなんです。
大体これって場所の前か、初日が終わった時点で聞かれることになるものです。まぁ皆さんからするとどういう場所になるか?っていう展望を知りたいというのは自然なことだと思うんです。
でもね
そんなことできないんですよ
やればやるほどわかってきました
プロ野球の優勝予想も然りなんですけど、事前の情報と実力をトータルで見ることによって解説者やライターとしての能力を皆さんとしては見たい、というか、むしろそれが当たらない人を「逆神」みたいな言い方をして小ばかにしたいみたいなのあるじゃないですか。
あれは本当に困る
相撲に関してはね、特に難しいんですよ
事前の情報が限られているっていうのがまずありましてね、横綱や大関であればまだしも、それよりも下の力士の好調・不調なんていうのは情報がそもそも入ってこないです。
で
蓋を開けてみて不調になって、そこで初めて戦前に明かされなかった情報が出てきます。まぁ当たり前なんですよ。対戦格闘技ですから、そんなこと開示していたらねらわれちゃいますからね
初日の結果だけでは力士の状態は分からない
そしてもう一つ
初日の結果からは全てが見えないっていうことなんです
これに関してはいろんな切り口で話せるんですけど、勝つにせよ負けるにせよその日の相撲の内容しかわからない
素晴らしい内容で、電車道で一方的に勝ったとするじゃないですか
そういう時ってこの力士は好調だと判断する人も結構いますし、それは自然なことだと思います
でもそれってその時点では、その日の取組を優位に進められたということを示しているに過ぎないんです
大相撲って15日間の中で様々なタイプの力士が出てきて、全体的にまんべんなく良い結果を残さなければならないんですよ
つまり、まるで別のタイプの力士を相手に同じように持っていけるかなんてわからないということです
あとね
良い相撲が取れる時もあれば、自分の展開に出来ない時も生まれます
そういう時に対応できるか?っていうのは、自分の相撲を取れる時とは別の能力が求められるんですよ
付け加えると、初日でコンディションが良くない場合であっても相撲を取りながら徐々に修正するということも力士の能力の中に盛り込まれています
前頭の上位の力士は最初に上位と当たるのでピークを序盤に持ってくることも多いですが、大関や横綱になると優勝を視野に入れるので最初は負けない相撲を取りながら状態を挙げるなんてこともあります
綱とりのかかる二人はどうだったのだろう
これらを踏まえて初日の取組を見てみましょう
今場所の興味って綱とりだと思います
ここまで照ノ富士が皆勤すれば優勝するという勢力図だったところが横綱誕生によって大きく変わる可能性が出てきている訳ですからそうなるのも当たり前なんですけど
豊昇龍は正直驚きました
普通あの展開だと霧島に流れが行くところでしたからね
これまでの展開だったら霧島に反撃されたところで豊昇龍が投げを狙うみたいな感じになりそうでした
一旦組み止められて、いかにも霧島が力で制圧するような展開になりそうでしたが、組み止められたところからの豊昇龍の動きがとにかく早かった
霧島は面食らったと思います。自分の展開にしようとしたらスピード負けして気が付いたら防戦一方になっていたのですから
琴櫻もちょっと危ない場面がありました
いかにも攻めている最中に隙を突かれて逆転負けするという、琴櫻が序盤に負けそうなパターンがちらついたからです
ただ、ここをこらえた後が良かったです
初日から負けたくはない場面で、土俵際で無理しそうなところではありましたが、リスクなく追いつめてキチンと決めた
なんでそんなに焦るのかなぁっていう相撲になりがちなところなんですけど、普通の琴櫻が普通に攻めて勝ったというのは単純に明るい材料だと思います
大の里はもろ手がすっぽ抜けてしまいましたね
やっちゃいました
今のところそれ以上でもそれ以下でもないように思います
とにかく引きずらないことです
なので、今日の結果はそれぞれちょっと良くない部分はありましたが、結果の面で違いが出たということだったと思います
照ノ富士の敗戦を不調と捉えた理由
ただ
昨日の結果を見て明らかに異変を覚えた力士が居ました
照ノ富士です
若隆景って照ノ富士からするとそんなに危険な相手ではないと個人的には思っていました
というのも、若隆景のパターンだとおっつけて中に入って起こしたいところなのですが、照ノ富士は挟み付けられるので、中に入られたら逆にチャンスなんです
きめるような態勢になったら軽量の若隆景はなすすべがありません。ですから若隆景としてはいつもの相撲とは異なる戦略が求められていましたが、見ている側としては今一つ若隆景に可能な選択肢の中でどう取るかが見えなかったんです
そしてふたを開けてみたら照ノ富士があっさり倒れた
若隆景はちょっとズレた立ち合いを見せまして、そこに照ノ富士がついていけなかった
こういう結果だと普通はああ滑ったのかな、とか、予期せぬ相撲に面食らったのかなという見方になるんですけど、現地で4人で観戦していて本当に重い空気になったんです
というかね
座布団が大して舞わなかったんです
それは異変を国技館で共有したことによるものだと思うんですね
本来だったらあの立ち合いが予期できなかったとして、振られた時点でバランスを崩すくらいだったと思うんです。私が知っている照ノ富士であれば
で、それを横から若隆景が攻めて、照ノ富士が堪えるみたいな流れになるところですね
でも、いきなり決まってしまったから、戦略的に出し抜かれたということもさることながら、みんな思ったのは本来の照ノ富士ではない、ということだったと思うんですね
普通は一つの取組では分からないんですよ
でも、相当悪そうだという感想になってしまった
それは足が細かったこと、直前の稽古の結果で圧倒できていなかったこと、そして若隆景の立ち合いに対応できなかったばかりかその後で立ち回れなかったこと、更には出場しても途中休場することもこの2年で多くなっていたこと
これらの点を線で結び付けた時に「今場所の照ノ富士は相撲が取れない」という結論をあの時点で導いた人が大変多かったということだと思うんですね
本来一つの負けでここまでの評価が下しにくいところですし、綱とりが懸かる中で横綱が壁役を担えないという悲観的な予測ってしたくないところなんですよ
だから、悪い結果が出ても楽観的な揺り戻しをしたくなる
でもそれが出来なかったというのは、それだけ照ノ富士の異変を如実に感じたということなんです
今の時点では単なる一敗ということで捉えたいところではあるんですけど、本来苦にしてこなかった若隆景を相手にこの内容だとすると、2日目の相手は苦手の隆の勝ですからなおさら厳しいわけです
初日の結果で予測することなんて出来ないというのが私の持論ではありますが、綱とりの鍵を握ると思っていた照ノ富士の思わぬ敗戦はどんな結果を招くのか
この結果からすべてを判断するのは早計だと思います
ただ、不安を抱いた初日ではあったのです