貴景勝横綱の可能性をデータから考える
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貴景勝は「好き」と「嫌い」が明確で、客観的な評価があまりない
貴景勝が成績次第では横綱の可能性がある九州場所が始まります。
年齢的にはまだ中堅ではありますが、師匠が角界を去り、大関に昇進し、直後に陥落し、怪我・カド番と優勝・綱取りを繰り返すという波乱万丈の数年を送っているのでそろそろベテランと言われるところに入りつつあるところかと思いきや、です。
その資質については突き押し一本で廻しを取られると敗色濃厚になることやあまりにも怪我が多すぎるところ、そして最近出てきたところで言えば優勝決定戦で変化をするような気概の力士が果たして横綱にふさわしいのか?などと厳しいことを言う方も居ます。
師匠の貴乃花がいわゆる「貴の乱」を起こした辺りから、貴景勝は明らかに「好き」と「嫌い」が別れる力士になってきたように見受けられます。良い結果でもアンチが叩くし、叩かれるとファンが激怒するということで、本人の戦いもさることながらファンとアンチの争いもかなり熾烈と言える状況です。
さて。
ふと考えてみると、大関としての貴景勝とは果たしてどのような力士なのでしょうか?
あまり客観的に捉えられない力士なので良い機会だと思います。
通算成績では大関として平均
まず、大関としての積み上げ型の成績を追ってみましょう。
つまり、大関としての通算成績です。
貴景勝は大関として192勝106敗です。
勝率にすると0.644。
これだと少し分かりにくいかもしれませんが、大関として成績が足りないとされるのが「クンロク」。すなわち9勝6敗です。クンロクだと勝率は0.6なのですが、これよりも少し高いくらいだと言えます。
貴景勝の大関としての勝率を15日に換算すると、9.6勝です。強いイメージを抱いている方も多いと思いますが、実はこの9.6勝というのは歴代大関のほぼ平均値なのです。
アベレージの成績から見ると、貴景勝は大関としては平均。横綱の平均成績が1場所あたり10.7勝というデータを以前調べたことがありますので、大関昇進後の成績比較では平均的に見ると横綱には足りないとということになります。
なお、横綱昇進直前の稀勢の里の大関で勝率が0.7を超えていました。これは15日に換算すると10.5勝ですから横綱の平均値に極めて近い水準と言えるものでした。
優勝回数で見ると貴景勝は大関として歴代2位
次に優勝回数で見てみると、通算ではありますが貴景勝は4回幕内優勝を経験しています。
年6場所制移行後の最高位大関の力士としては、これは歴代2位です。これを上回る力士はあとは魁皇(5回)しか居ません。
3位となる優勝回数3回の力士を見ても御嶽海、栃東、千代大海、小錦が続きます。
ここに出てくる引退した力士は皆名大関と言って良い力士でしょう。御嶽海だけ印象が異なるのは恐らくまだ現役で、客観的な評価がしきれない立ち位置だからではないかと思います。
2度の優勝で見ても、貴ノ浪、北天佑、若島津、琴風、魁傑、貴ノ花という顔ぶれです。2回以上優勝している力士もまた、名大関なのです。
つまり、貴景勝は優勝という視点で見れば名大関ということで間違いない力士だと言えます。
優勝回数が多いのに勝率が低い理由は?
ここで恐らく疑問に思われる方が居ると思います。
「何故優勝回数が歴代2位なのに、勝率が低いのか?」
という点です。
実はその答えを私は冒頭で述べております。
それは、貴景勝の怪我の多さに起因しているのです。
こう見ると一目瞭然です。
貴景勝は決して平均化することによって評価することが出来ない力士だということなのです。
何しろ、中間が無いんです。
優勝するか、優勝争いするか、休場するか、何とか勝ち越すか。
それを平均化すると何故か大関のアベレージとほぼ同じになるというのが何とも面白いところです。
過去の横綱たちもまた、類を見ない者たちだった。貴景勝も…?
過去の横綱は、大関時代にある程度平均成績が高いという特徴があります。つまり、貴景勝は過去の横綱の特徴を有していない力士ということになります。
ただ、そのことが貴景勝という力士を際立たせているようにも思います。過去の横綱を考えてみても、実は過去に類を見ないものを持つ者だったのです。
照ノ富士は大関昇進後、序二段まで転落した後で横綱に昇進しました。稀勢の里は優勝に何度となく手が掛かりながら逸し続けました。鶴竜は平均的な大関でしたが、最初の綱とり場所を一発で通過しました。日馬富士はいわゆる横綱相撲には程遠いスタイルで優勝を重ねました。白鵬は言うまでもありません。
そういう基準で見ると、過去に類を見ない存在という点を考えると貴景勝は綱取りの王道に居ると言ってもいいのかもしれません。
データは力士の可能性を閉ざすものではありません。必ずデータを打ち破る例外が現れます。常識を破る次の力士が貴景勝だったとしても、私は一切驚かないですし、むしろやはり来たかと思うかも知れません。
それほどケガとカド番と優勝を繰り返してきた貴景勝は、規格外なのですから。